少し間があって、照れたように、カホは言う。
「はい。そうです。」


俺は目を閉じて、じーーーんとカホの声に耳をすます。
「さっき、お風呂入ってて出られませんでした。」
ばーかーやーろーなんでそういうこと言うんだよ。鼻血出そうになるじゃないか。
「……………。」
「もう、元気になりました?あ、でもまだちょっと鼻声かな?」
「ありがとう。もう大丈夫だよ。おかげさまで。」
「そっか。良かった。」

俺は一呼吸おいて言ってみる。
「で、お礼がしたいんだけどさ。」
「え、いいですよ。そんな。」
「なんかご馳走する。寿司とか焼肉とかなんでも。これでも売れっ子芸能人だからさ。」

断られる事は込みで、俺はできるだけ軽く言ってみる。

「えー、そんなのいいですよ。気にしないでください。困った時はお互い様でしょ?」

「でもそれじゃあ、俺の気が済まないから。」

俺は、もうヤケになっていた。 しつこいと思われてもいいや。
「うーん。。。。。その、、」
カホは言いにくそうに続ける。
宮島と同じように、彼氏がいるって断られるよな。
そうしたらなんて言おうか。。。ぐるぐると頭の中で考えを巡らせる。

「うちの会社、一応タレントさんとサシで個人的にご飯行くのとか禁止なんですよね。
打ち上げとか、みんなで行くのは全然良いのですけど。」
そういうことか。まあ、この業界の暗黙のルールだしな。
スタイリストやヘアメイクは、タレントと噂になるとまずは仕事を外される。

「……………あの。」
カホは、少しまた考えて遠慮がちに言う。
「あの、また高岡さんのうち行っちゃダメですか?」

「え」

いやいやいやいやいや、ちょっと待てよ。こ、これはどう受け取ったらいいもんか。


「どうせ近所なんだからその方がいいかなあと思って。 もしお礼って言うなら、私、高岡さんの作った料理が食べたいな。」

やっぱり、この娘は俺に対してなんの警戒心もないんだな。 そう確信する。
ええい、もうええわ。
「わかったよ。じゃ、腕をふるってご馳走してやる。何が食べたい?」
「きゃー!やったー! そーだなー。プロ級の中華も食べてみたいし、和、洋、、、、うーんどうしよう。」

テンション高いカホに、俺も思わず笑ってしまう。
「そうだな、洋食にしよう。 俺のハンバーグとかめちゃうまいぞ。」
それ食べたら、イチコロだぞ。 結構これを食べさせて女の子を落としてきた成功体験を思い出して提案する。
「ハンバーグ大好き! 楽しみ!」

意外な展開に、一番俺が驚いている。
まあ、宮島みたいに警戒されて彼氏いますって断られるよりは全然マシだよな。