小さな土鍋の蓋をあけると、もわああっと白い湯気が立ちのぼり、しょうゆと出汁の香りが
俺の鼻をかすめる。
「うっわ。うまそー。」
うどんにネギと卵を落とし、ほうれん草とできあいの小さなかき揚げがのっている。

「高岡さんの彼女さんってお料理上手なんじゃないですか?」
ふうふうしてる俺をじーっと横でベットに頬杖ついて、その黒目がちな目で見つめてくる。

「え??」

「なんか、私、出しゃばって来ちゃったけど、彼女さんに悪かったかな。」
とカホは申し訳なさそうな顔をして言う。

「彼女なんていないよ。」

「でも、こんな気の利いた土鍋もあるし、けっこうちゃんとした調理道具や調味料は揃ってたから。」


俺は少し苦笑する。
「意外かもしれないけど、自炊これでも結構してるんです。
売れない下積み時代は、中華料理屋の厨房でバイトしてたから、結構料理は得意だ。」

カホはびっくりした顔をする。
「意外!それは意外! じゃあ、高岡さんが作るご飯美味しいんだろうな!」
「芸人やめるか、店長になるか迷うぐらいまではいったかな。」

ズルズルとうどんをすする。
「うまい。」
マジで涙が出るほどうまいし、嬉しい。 温かい食べ物が俺の心も身もほぐしてくれる。
楽屋弁当やロケで必要以上に食べなければいけない外食や、プライベートでの不摂生が俺の身体を蝕んでいるのが身にしみてわかる。
「良かった。食欲はありますね。」

「うん。ありがとう。マジでうまい。」

カホは微笑んで、
「でも、忙しくて、もう料理しなくなっちゃったって感じですね。 いくらなんでも冷蔵庫にビールしか入ってないなんて、道具たちが悲しんでますよ。」

「まあ、、、ね。」

「何が得意料理なんですか?」
「中華はなんでもプロ級。 でも和洋こだわりなく結構作れるよ。」
「すごっ! 高岡さんの料理食べてみたい!」

ベッドサイドにいるカホとする会話と、温かいうどん。
これだけで、癒され、元気になれる気がした。

どうすんだよ。

こんなふうに優しくされると完璧に惚れちゃうじゃないか。
看病されて恋に落ちるって、どっかの少女マンガみたいだな。
そーいうキャラじゃねえだろ!バカバカしい。
俺は混乱したまま、とにかく目の前のうどんだけに集中しようと努める。