『稲森さんの件、頼んだぞ!』

あー。忘れてた…。
チッ、面倒くせー!



廣澤、なんで稲森なんだ。
アイツは女豹だ。とんでもない女だぞ。
アイツはな、俺を襲ったんだぞ!
当直明け、仮眠室で寝てたら、アイツが入ってきて、鍵閉めて、服脱ぎ出したんだぞー!
めっちゃ怖かったんだからな。
俺、貞操の危機だったんだぞ。
幸か不幸か、俺の分身は俺と一緒に縮こまって、ピクリとも動かなかったからな。そこは全く心配なかったけど!

見たくもないもの見せられるのは迷惑なんだよ!
お前は痴女か!
その貧相な身体、早くしまえ!

って、追い出したけどな。

だけど、もしあそこに誰かが来て、見られてたら言い逃れ出来ない。
こっちに非がなくてもな。
それくらいはわかる。
稲森がリスクを背負ってまで思い詰めて、ああいう行動に出たのか。
それとも無視し続ける俺への嫌がらせだったのか。
ただ欲望に忠実に行動した結果なのかは、わからない。

俺に妻子(腹の中だったけど)がいるのを知ってる上での行動だ。とても賢い女のすることだと思えない。

まあ、最近はようやくまともになってきた気がするけど…。

あれから、俺は最大限の注意を払うようになった。隙は見せない。影も踏ませたくないくらいだ。
あんな事、墓場まで持っていかないと……!

ただ、俺とは全く合わないが、相手が廣澤となると……
どっちもどっちだからなぁ。

客観的に外見だけ見れば、モデル体型でそこそこ顔の良い稲森と、人の良さそうな万人受けする顔で身長は高め、サッカーで鍛え抜いた、いかにも爽やかなスポーツマンタイプの廣澤は、ぴったりだと思う。
それに、大病院を継ぐんだ。
何かしらメリットのある女を妻に迎えなければいけないということも理解できる。
きっと周りが納得しないんだろう。
女医ならアリだ。
条件だけなら確かに合うな。