ごく自然にみんなと合流した私たちは、何事もなかったかのようにそれぞれ焼き肉屋に向かった。

男子女子それぞれが五人一グループとして八席を占領しつつ、大盛り上がりで打ち上げは始まった。

主役はもちろんなっちゃんと夕くんだ。

なっちゃんは絡みに来る男子、感謝しに来る女子とかわるがわる話し続けている。

隣の私は静かに乳酸菌飲料をすすっていた。
もうお腹いっぱい食べたし、デザートが来たらまた食べるつもりだ。

夕くんもなっちゃんと同じような感じだった。

この前まで教室のどこにいても目立つことのなかった彼が、クラスメイトとごく自然に会話している。嬉しかった。

でもどこか、少し寂しさを感じている私がいるのも事実だった。
己の器の狭さに苦笑する。


「彩!」


完全に気を抜いていたタイミングで話しかけられた。
間髪入れず「乾杯!」と言われ慌ててグラスを上に掲げる。

このノリは間違いなく太一。


「どうしたの」
「お前にいいもん見せようと思って」


そういって見せられた画面には、女装姿の夕くんと執事姿の私。
横から撮られているがポーズをとっているので、間違いなくお金をもらった写真撮影タイム中のワンカットだ。


「いいだろ」


ふふんと自慢げな顔をしている太一に、「三百円頂戴します」と手のひらをだし、容赦ない一言を浴びせた。


「送るからチャラな。壁紙にでもしろよ!」


私に怒られる前にさっさと退散した後、画像が二枚送られてきた。
一枚は先ほどのもので、二枚目は営業スマイルの夕くんのスナップ。


‥‥‥気付いた時には保存し終えていた。

神様、私は器が小さい上に自分本位な人間です。どうか許してください。


『今回は見なかったことにしてあげる』
『ちゃっかり保存してるくせに』


遠くの太一がこちらを見て口角を上げ笑っていた。迷わず既読無視をする。

そうだ、衣装係の二人にお礼を言わなきゃ。
今回はかなりお世話になったからな。

理系女子の席にお邪魔すると、妙な歓迎を受け困惑する。


「もっちーナイスタイミング♡」
「聞きたいことがあるの♡」


確実に裏がある笑顔のめいちゃんとみうちゃん。
他の三人の女子も同様。


「な、なにかな」


引き気味で絞り出した声。めいちゃんが口を開く。


「もっちーって、東雲くんと付き合ってるの!?」
「え?」


数秒固まってしまった。興味津々の女子の顔の怖さを初めて知った。

と、そんなことよりも、質問になんと答えるかを考えなければ。

言葉だけを切り取ればNO‥‥‥だと思う。

でも、さっきのやり取りを考えると一概にそうとも言い切れない気がしなくもない。

あのキスがどれくらいの意味を帯びていたのか、私はまだ理解できていなかった。


「いや、違うかな‥‥‥?」


私の言葉でその場がわっと沸き立つ。私の心がざわりとした。


「まみ、もっちーのただの片想いだって! チャンスあるよ!」


ただの片想い。


そうか、私のただの片想いなのか。

他人にあっさりと言われてしまった。
静かに、ゆっくりと知った彼への気持ちは、所詮私の中のエゴ以外の何物でもない。


でも直感した、この場において私はアウェーだ。


「そ、そうかなあ‥‥‥望月さん、私東雲くんのこと前から気になってて、今回のことで好きになっちゃったの」


ごめんね、と言われた。
一体、何がごめんなのだろう。言及したい気持ちを抑えて笑顔を作る。


「そうなんだね! 私も彼のこと、人としてとっても好きだし、尊敬してる。頑張ってね!」


すぐにその場を立ち去った。

背中から、嘘つくの下手すぎ、と笑い声がする。


それを完全な悪意だと認識した私は急に気持ちが悪くなった。

肺に蔓延する焼肉の香りが不愉快で、しばらく焼き肉は食べられそうにない。

急いで店の外に出て空気を吸い、店内からは影になるであろう茂みに座り込んだ。