次の日は半日ホームルームで、自己紹介、委員会・係決め。なんとか噛まずに自分の名前を言い切ると、後ろの席のなっちゃんがグッと親指を立てながら立ち上がる。

私となっちゃんは高校からの知り合いだけれど、仲良くなれたのは名簿番号が前後で、話せる機会が多かったから。そしてそれは今年も同じだ。

でもそれだけで満足できない。私はなっちゃんがいなくても一人でやっていける、強い女になるのだ。
大学生になったらなっちゃんに甘えていられないし。


「彩、委員会どうする? 私、修学旅行係やりたいな~!」


修学旅行係は女子男子各二人ずつなれる唯一のポジション。
なっちゃんのことだからきっとそれはわかりきっていて、私を男慣れさせようという下心故の発言だろう。でも。


「男子が怖い人かも‥‥‥」
「あ、それは大丈夫。ね、太一」


そう言って突然横の男子に話しかけるなっちゃん。隣の人は確か、春川くんっていってたっけ?
見るからに好青年。髪は若干くせっけなのか、ふわふわそうだ。


「おう。よろしく、望月!」
「太一は陸上部で同じ種目してるの。気心知れてるから、緊張しなくて大丈夫だよ!」
「そうなんだ。よろしくね、春川くん」


そうは言っても慣れない。おずおずと挨拶する。


「かたいのはなし! 春川って呼び捨てしてみ?」
「は、春川!?」


満足そうな表情を浮かべると、そのままなっちゃんに顔を向ける。


「しょうがないからやってやるけど、他やりたいってやついなかったんだよな」
「えー、楽しそうなのに。でもみんなを誘ったわけじゃないでしょ?」
「そりゃまあな」
「んじゃ他に誰かいるって! サンキュー太一」


心底なっちゃんが羨ましいと思った。誰とでも話せて、態度も変わらないなっちゃんが。

よし、私もなっちゃん目指して頑張らなきゃ!

そう意気込んでいると、先生が「じゃあ次、修学旅行係の希望者はいるか?」と声をかける。


「はーい、私たちやりまーす!」


私と春川の腕をつかみ、なっちゃんが立候補。私たちの他には誰もいないようで、先生は手元の名簿と席を照らし合わせながら黒板に名前を書き込んでいく。


「あと男子一人、誰かやらないか?」


しーーんと静まりかえる教室。
え、修学旅行係、そんなにやりたくない? みんな楽しみじゃないの?
困り顔の先生と、気まずい空気の教室。そこに、凛とした声が響いた。


「じゃあ、俺がやります」


どよめく教室に先生はあからさまにほっとした。


「助かるよ。えっと、お前は‥‥‥東雲だな」
「はい」


コツコツとチョークの音が響く。緊張がほどけ、また話し声が至る所から聞こえるようになった。

一番窓際の東雲くんをちらりと見やると、今日もまた無表情で窓の外の桜を見ていた。遠目にみているだけなのに、その光景はやけに綺麗だった。
ぼうっと見ていると、後ろ二人の小声での話が耳に入ってくる。


「東雲かよ‥‥‥」
「なっちゃったもんは仕方ないね。少しは協力的だといいけど」


やけに攻撃的な二人の会話が耳に残る。
そんなに悪そうな人には見えない。むしろあの雰囲気の中で声をあげられるなんて、大げさかもしれないが自己犠牲の精神が強すぎるのではなかろうか。

不思議な気持ちになりながら一日を終える。
なっちゃんと春川はすぐに着替えて部活に行ってしまった。春川のことは初めて知ったけど、二人ともどうやらとても仲がよさそうだ。

もしかして実はいい感じなのかな?と下世話なことを思いながら帰り支度を始める。