「奈月、彩! 三人で夏祭り行くぞ!」


夏休み謎の自習十日目、つまり最終日。

横に並びながら勉強していた私たちのもとに駆け寄ってきた太一は、開口一番にそう言った。
あまりに突然のことだったので、反射的に「はあ?」と聞き返す。


「深水神社のお祭り。今日だろ? この後行くしかないよな」


押し付けられたポスターを二人で読む。

深水神社は高校からさらに山方面へ向かったところにある、学業成就の神社。
私は家から高校が少し離れているので、この神社に行く機会は人生一度としてなかった。

今日のお祭りも名前しか聞いたことはない。
が、駅からの大通りは一帯が歩行者天国となり、市内の子供から大人まで、たくさんの人が歌い踊りながら練り歩くそうだ。もちろん、屋台もたくさん出店される。

せっかく田舎から田舎の都会まで、夏休み中にもかかわらず足繁く学校に通っているのだ。この機会を逃す手はない。


「いいね! 行こ!」
「ええ? 彩行きたいの?」
「私お祭りとか好きだけど、これは言ったことないし! 学校からすぐだし行こうよなっちゃん~」
「彩は分かってんな! 奈月、親友は行きたいって言ってるぞ」


意外にも人混みが苦手ななっちゃんは相当渋っている。

お祭りなんて、久しぶりだな。それになっちゃんと行ったことはないし、思い出作りもできたらいいな。

あ、でも東雲くんとも一緒に行けたら最高かも‥‥‥て、いやいやなんでここで東雲くんが出てくるのよ私。


ふと視線を感じ、太一に説得され押され気味のなっちゃんをよそに周りを見渡すと、心ここに在らずな様子の東雲くんとばっちり目が合った。
逸らせもせずにそのまま固まっていると、意識が戻ったらしい彼はおもむろにスマホを操作し始めた。

なんだったんだろうと心の中で首をかしげていると、ポケットの中でスマホが振動した。
開くとLINEの通知が来ている。東雲くんからだった。
面食らった。テスト前日の短いやり取り以降、一度も話してなかったから。
すぐにメッセージを開く。


『祭り行くのか』


端的な文章だった。


『行くよ!』『春川と?』『うん』


あからさまな嫌な顔に。慌てて付け足す。


『いや、なっちゃんもだけど』
『そうか』


どうしたんだろう。もしかして東雲くんもお祭り行きたいとか? でも絶対彼こそ人混みは嫌いだろう。

でも、一緒に行けたら私が嬉しいな。ダメもとで聞いてみることにした。と、文字を打ち始めたときにメッセージが来る。


『気を付けろよ。祭り、治安悪そうだし』


なにそれ。思わず笑ってしまう。でもこれは利用できるな。


『じゃあ何かあった時のために一緒に来てよ』


想定外の返信だったのか、遠目に見ても固まっていた。
折れかけのなっちゃんと熱烈に勧誘中の太一に声をかける。


「ねえ、一人連れていきたいんだけど」
「‥‥‥人によっては受け入れられないからな」
「じゃあ行くのやめよっかなー」


彩が行かないなら行かないけど!?と騒ぎ立てるなっちゃんと、頭を抱える太一。きっと東雲くんと一緒に行きたいと思ってることは筒抜けなのだろう。


『おい、行くなんて言ってないぞ』
『大体、なにかあったら春川がなんとかしてくれるんじゃないのか』


また心にもないことを。


『なっちゃんのお世話で忙しそうだし、東雲くんと行きたい。』


素直にそう伝えたらばつの悪そうな顔をしていた。

『今回だけだからな』とメッセージを送ってきているのに恨みを目で訴えてくる彼に満面の笑みを返す。

なんだかんだこうやって付き合ってくれるから、東雲くんは優しい。


「お祭り楽しみだな!」と大きな独り言をした。
私以外の三人は、あまり乗り気でない様子だったけれど。