レントゲン室の冷たい空気が、肌に突き刺さる。
あの時、MRI室の壁を蹴り飛ばし、無残な穴を開けた技師は、今日僕を呼び出した時も、その穴の向こうに視線を投げたまま、背中を向けた。
「秋夫さん。……これ、昨日提出されたものだが」
彼が投げた容器が、デスクの上でコツリと乾いた音を立てる。
彼は振り返ることもせず、怒りとも呆れともつかない低い声で言った。
「にこると南、あの新人の二人が『臨床検査の練習だ』と言って、あんたの検体を持ち込んできた。……壁に穴をぶち開けたあの時の俺の気持ち、あいつらは何もわかっていないようだな」
彼はようやく僕の方を向いた。あの時、壁を粉砕した足の重みが、今も床に残っているような錯覚を覚える。
「あんたたちは病院を何だと思っている。俺は淡々と仕事をしているだけだ。だがな、検査の結果は出ている」
彼はモニターを叩くようにして、僕の「生」の証明を表示させた。
「異常なしだ。性病もなし。精子の運動率も健康そのもの。……これ以上ないほど健全だと言っておくよ。あいつらが、何の『練習』としてあんたを弄んだのかは知らんが、医学的なデータとしては、あんたは極めて健全な個体だ」
彼はデスクの縁を強く握りしめた。その指先が白く浮かび上がる。
「あいつらは練習だと言った。だが、俺に言わせれば、それはあんたという人間を病院のシステムという檻の中に、より深く、より醜く閉じ込めるための儀式にしか見えない」
壁に開いたあの穴が、まるで僕たちの行き場を失った欲望の出口のように、真っ暗な口を開けている。
「これを持って帰れ。二度と俺の検査室を、あいつらの遊び場にするな。次は壁だけじゃ済まないぞ」
僕はその「健全」というレッテルが貼られた書類を受け取り、そそくさと検査室を後にした。
廊下に出ると、ナースステーションの奥から、にこると南ちゃんの囁き声が聞こえてくる。
あのレントゲン室の壁を蹴り飛ばした技師の怒りさえも、彼女たちにとっては僕を管理するための「装置」の一部に過ぎないのだろうか。
僕は健全な精子を抱えて、彼女たちの待つ泥濘へと足を進めるしかなかった。
あの時、MRI室の壁を蹴り飛ばし、無残な穴を開けた技師は、今日僕を呼び出した時も、その穴の向こうに視線を投げたまま、背中を向けた。
「秋夫さん。……これ、昨日提出されたものだが」
彼が投げた容器が、デスクの上でコツリと乾いた音を立てる。
彼は振り返ることもせず、怒りとも呆れともつかない低い声で言った。
「にこると南、あの新人の二人が『臨床検査の練習だ』と言って、あんたの検体を持ち込んできた。……壁に穴をぶち開けたあの時の俺の気持ち、あいつらは何もわかっていないようだな」
彼はようやく僕の方を向いた。あの時、壁を粉砕した足の重みが、今も床に残っているような錯覚を覚える。
「あんたたちは病院を何だと思っている。俺は淡々と仕事をしているだけだ。だがな、検査の結果は出ている」
彼はモニターを叩くようにして、僕の「生」の証明を表示させた。
「異常なしだ。性病もなし。精子の運動率も健康そのもの。……これ以上ないほど健全だと言っておくよ。あいつらが、何の『練習』としてあんたを弄んだのかは知らんが、医学的なデータとしては、あんたは極めて健全な個体だ」
彼はデスクの縁を強く握りしめた。その指先が白く浮かび上がる。
「あいつらは練習だと言った。だが、俺に言わせれば、それはあんたという人間を病院のシステムという檻の中に、より深く、より醜く閉じ込めるための儀式にしか見えない」
壁に開いたあの穴が、まるで僕たちの行き場を失った欲望の出口のように、真っ暗な口を開けている。
「これを持って帰れ。二度と俺の検査室を、あいつらの遊び場にするな。次は壁だけじゃ済まないぞ」
僕はその「健全」というレッテルが貼られた書類を受け取り、そそくさと検査室を後にした。
廊下に出ると、ナースステーションの奥から、にこると南ちゃんの囁き声が聞こえてくる。
あのレントゲン室の壁を蹴り飛ばした技師の怒りさえも、彼女たちにとっては僕を管理するための「装置」の一部に過ぎないのだろうか。
僕は健全な精子を抱えて、彼女たちの待つ泥濘へと足を進めるしかなかった。
