パンデミック.新形コロナウイルス

夜の静寂が病院を包み込み、ようやく一息ついたその時だった。
地響きのような、すさまじい音が夜の空気を引き裂いた。
――ドーン!!
金属が激しくひしゃげる、尋常ではない衝撃音。
ナースステーションの窓ガラスがガタガタと細かく震える。
「……何、今の音」
私や看護師たち、そしてまだ起きていた彼女も一瞬で硬直した。ただ事ではない。私は弾かれたように立ち上がり、音のした病院の外へと急いだ。
外に出ると、冷たい夜気の中に、鼻を突く焦げ臭い匂いとガソリンの臭いが立ち込めていた。
街灯の明かりの先、病院の目と鼻の先にある電柱に、一台の車両が信じられない角度でめり込んでいるのが見えた。
闇の中に浮かび上がる、禍々しいほどのピンク色のボディ。
「あれは……」
見覚えがあった。以前、あの不気味に喋る人形の騒動の時に見かけた、あの「植松」が乗っていた風俗店の送迎バスだ。
夜の街へと女の子たちを送り届けるための、運転代行のバス。
車内には、派手な服装をした若い女の子たちが何人も乗っているのが窓越しに見えた。恐怖に顔を歪め、互いにしがみつきながら悲鳴を上げている。
電柱に正面から激突したバスのフロント部分は、原形を留めないほど無残に大破していた。ちぎれたバンパーから火花が散り、白い煙がモクモクと夜空へ吹き上がっている。
「誰か、すぐに救急車と警察を!」
私の叫び声と同時に、遠くからサイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。
またたく間に、現場は数台のパトカーと救急車の赤い警告灯で埋め尽くされた。激しく明滅する赤と青の光が、大破したピンクのバスと、怯える女の子たちの顔を不気味に照らし出す。
「おい、大丈夫か!? 動ける者は外へ出ろ!」
警察官たちの怒号が飛び交い、野次馬が集まり始め、夜の病院周辺は一瞬にして混沌とした戦場へと変貌していった。