パンデミック.新形コロナウイルス

カウンセリング室から出てきた彼女の顔は、さっきまでの激しい雨のような荒々しさが嘘のように、静かな水面のように落ち着いていた。
ただ、その瞳の奥には、まだ隠しきれない疲労と、どこか行き場のない不安が揺れている。
「……さっきは、あんなに……すみませんでした」
廊下で待っていた私たちに気づくと、彼女は深々と頭を下げた。自分の感情をすべてぶちまけてしまったことへの羞恥と、困惑が混ざり合っている。
「いいんですよ。謝るなんてこと、しなくていい」
私はそう言って、彼女の肩をポンと叩いた。にこるちゃんと美波ちゃんも、何も言わずに彼女の隣に並び、優しく微笑みかける。
そのまま帰らせれば、間違いなく彼女は、静寂の待つ暗い部屋で、再び自分自身を傷つけるカッターを握ってしまうだろう。そうなる前に、誰かがそばにいなければならない。
「ねえ、まだ帰らなくていいよ。……一人だと寂しいでしょ? もう少し、ここにいたらどうかな」
私の提案に、彼女は少し驚いたように顔を上げた。
病院という場所は本来、冷たい「治癒」の場所かもしれないけれど、この時ばかりは、私たちは彼女の「帰るべき場所」そのものになろうとしていた。
それからの生活は、奇妙なほど温かかった。
彼女は私たちの病室(のような場所)に留まり、食事も、私たちスタッフと同じテーブルを囲むようになった。
院長や会計には少しばかり無理を言った。
カウンセリングの料金以外は、すべて免除。食事代も、雑費も、彼女には一切請求させないという特例を勝手に作ったのだ。
「命を守るため」という大義名分は、どんなルールよりも重い。彼女に「お金がないから、迷惑をかけるから帰らなきゃ」なんて理由で、再び死の淵へ追い返されるようなことは絶対にさせたくなかった。
「今日のご飯、美味しそう」
彼女が小さな声で言った。
病院食の、味気ないけれど温かいスープ。それを三人で囲み、たわいもない話をしながら、ただ一緒に同じ時間を過ごす。
そのたったそれだけのことが、彼女にとって、どれほど命を繋ぎ止める薬になっているか。
「……ありがとうございます」
一口ずつ、スープをすする彼女の顔を見て、私は安堵した。
ここは病院だ。けれど、今ここにあるのは、消毒液の匂いよりも強い、生きているという温もり。
私たちは、一人の女性が再び立ち上がるまでの盾となって、静かな食卓を囲み続けた。