扉が静かに開いた。その音は、正夫の無機質な響きとは違う、どこか柔らかな空気を伴っていた。
「……おはよう。お待たせしてごめんなさいね」
現れたのは茜だった。彼女は正夫が言い放った冷たい言葉の余韻を、まるでそよ風で払うように、優しく微笑みながら私たちに向き直った。
私たちがナースステーションで泣き腫らしている光景を見ても、彼女は少しも動じない。それどころか、ただ静かに、すべてを受け入れるような眼差しで私を見つめた。
「カウンセリング、今日から始めましょう」
彼女は私を促し、別の落ち着いた部屋へと連れて行った。そこには、ただ椅子とテーブルがあるだけの、余計なものが何もない空間が広がっていた。
「ここで、あなたのすべてを出しきりましょう」
茜は私を真っ直ぐに見つめて言った。その声は驚くほど穏やかだった。
「悔しかったこと、悲しかったこと、自分を捨てた彼への怒り、どうしようもない惨めさ。……全部、ここで吐き出してください。叫んでもいい、泣き崩れてもいい。壁を蹴り飛ばしたって構わない。あなたの心の中に溜まったその毒を、出しきってしまうまで、私はどこへも行かないから」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
今まで「落ち着きなさい」「冷静になりなさい」とばかり言われてきた私にとって、彼女の言葉は、まるで長年閉ざされていた扉をこじ開ける鍵のように響いた。
「……いいんですか? そんな、めちゃくちゃになっても」
私の問いかけに、茜はただ頷いた。
「ええ。今のあなたには、整理なんて必要ない。ただ、あなたの痛みというエネルギーを、外へ逃がしてあげること。それが、最初の一歩だから」
彼女がそう言った途端、私はたまらなくなった。
私はその場に座り込むと、握りしめていた拳で壁を叩いた。硬い感触が手に伝わる。何度も、何度も、悔しさと情けなさを、その壁にぶつけた。
「なんで……なんでよ!」
壁を蹴り、叫び、喉が張り裂けそうなほど声を絞り出した。
茜はただ、その光景をじっと見守っていた。私の激しい感情が、少しずつ、少しずつ、この白い部屋の空気に溶けていく。
彼女のカウンセリングは、言葉を重ねるものじゃなかった。
私という人間が、今この瞬間、確かにここに生きていて、確かにこれだけ深く傷ついているという事実を、彼女はただ、全身全霊で肯定してくれているようだった。
叫びすぎて、私はその場に膝をついた。
荒い息をつきながら見上げると、茜は膝をついて、私の目の前まで視線を下げてくれていた。
「……全部、出せた?」
彼女の問いかけに、私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、小さく頷いた。
ようやく、本当に、少しだけ、呼吸ができるようになった気がした。
「……おはよう。お待たせしてごめんなさいね」
現れたのは茜だった。彼女は正夫が言い放った冷たい言葉の余韻を、まるでそよ風で払うように、優しく微笑みながら私たちに向き直った。
私たちがナースステーションで泣き腫らしている光景を見ても、彼女は少しも動じない。それどころか、ただ静かに、すべてを受け入れるような眼差しで私を見つめた。
「カウンセリング、今日から始めましょう」
彼女は私を促し、別の落ち着いた部屋へと連れて行った。そこには、ただ椅子とテーブルがあるだけの、余計なものが何もない空間が広がっていた。
「ここで、あなたのすべてを出しきりましょう」
茜は私を真っ直ぐに見つめて言った。その声は驚くほど穏やかだった。
「悔しかったこと、悲しかったこと、自分を捨てた彼への怒り、どうしようもない惨めさ。……全部、ここで吐き出してください。叫んでもいい、泣き崩れてもいい。壁を蹴り飛ばしたって構わない。あなたの心の中に溜まったその毒を、出しきってしまうまで、私はどこへも行かないから」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
今まで「落ち着きなさい」「冷静になりなさい」とばかり言われてきた私にとって、彼女の言葉は、まるで長年閉ざされていた扉をこじ開ける鍵のように響いた。
「……いいんですか? そんな、めちゃくちゃになっても」
私の問いかけに、茜はただ頷いた。
「ええ。今のあなたには、整理なんて必要ない。ただ、あなたの痛みというエネルギーを、外へ逃がしてあげること。それが、最初の一歩だから」
彼女がそう言った途端、私はたまらなくなった。
私はその場に座り込むと、握りしめていた拳で壁を叩いた。硬い感触が手に伝わる。何度も、何度も、悔しさと情けなさを、その壁にぶつけた。
「なんで……なんでよ!」
壁を蹴り、叫び、喉が張り裂けそうなほど声を絞り出した。
茜はただ、その光景をじっと見守っていた。私の激しい感情が、少しずつ、少しずつ、この白い部屋の空気に溶けていく。
彼女のカウンセリングは、言葉を重ねるものじゃなかった。
私という人間が、今この瞬間、確かにここに生きていて、確かにこれだけ深く傷ついているという事実を、彼女はただ、全身全霊で肯定してくれているようだった。
叫びすぎて、私はその場に膝をついた。
荒い息をつきながら見上げると、茜は膝をついて、私の目の前まで視線を下げてくれていた。
「……全部、出せた?」
彼女の問いかけに、私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、小さく頷いた。
ようやく、本当に、少しだけ、呼吸ができるようになった気がした。
