パンデミック.新形コロナウイルス

歌い終えた私たちが、震える肩を抱き合って涙を拭っていると、背後の扉が乱暴に開いた。
「……お前ら、一体何やってるんだ?」
現れたのは正夫だった。怪訝そうに眉を寄せ、私と、泣き腫らした瞳の彼女たちを見比べている。彼は冷めた目で私を指差した。
「おい、なんでお前が泣いてるんだよ。当事者でもないのに。……ああ、あの女の子の話か。お前には関係ないことだろ。ただの患者の話だ。入り込みすぎだぞ、正夫さんはお前になんて教えたんだ?」
彼の言葉は、刃物のように鋭く、そして冷たかった。
「関係ない」――そう。彼にとっては、これは単なる症例の一つに過ぎないのだろう。感情を排除し、淡々と処理すべき「出来事」の一つ。
でも、私は違う。
胸の奥からこみ上げてくる熱いものは、単なる同情じゃない。
私自身の過去が、そこに重なっていたからだ。
かつて、私も誓ったはずの未来を奪われたことがある。
「ずっと一緒にいる」と笑った声も、指切りをした温もりも、相手が心変わりした瞬間に、まるで最初からなかったことのように塗り潰された。あの時の、理不尽で、どうしようもなく悔しくて、死にたくなるような絶望。
「……関係なくなんて、ない」
震える声で、私は彼を睨み返した。
「誰かがこれだけ傷ついて、泣いて、死にたいとまで思っているんだよ。それを『関係ない』で片付けたら、この世に生きている意味なんてどこにあるの? ……僕は、この痛みを知っている。自分の約束を破られた痛みを、この女の子の痛みと重ねてしまっているんだ」
正夫は呆れたように肩をすくめたが、その瞳の奥には、私の必死な叫びを理解しきれない戸惑いが浮かんでいた。
にこるちゃんと美波ちゃんが、私の背中にそっと手を添える。
「そうですよ」と、彼女たちが小さく呟く声が聞こえた。
ここは病院だ。
効率を求め、感情を消毒する場所。でも、どれだけシステムが整っていても、心はそんなに簡単に「関係ない」と割り切れるものじゃない。
私は涙を拭い、もう一度、心の中で『手のひらを太陽に』を奏でた。
たとえ彼に「入り込みすぎだ」と笑われても、私はこの「無関係なはずの痛み」を、自分の一部として抱きしめていたい。
それが、人間として生きるということだと、今は痛いほど分かっていたから。