パンデミック.新形コロナウイルス

「……今夜は眠れないわよね。このまま一人にするのはあまりにも危険よ」
そう言ったのは浜辺美波だった。隣で不安げに私を見つめるにこるちゃんと、そして私。看護師たちの判断で、今日は病室ではなく、ナースステーションの一角にある小さな面談スペースで一晩を過ごすことになった。
「私たちもここにいるから。朝まで、ずっと付き合う」
彼女たちの言葉は、突き放された傷口に塗る軟膏のように、じんわりと心に染みた。
夜が更けるにつれ、病院特有の静寂が私たちを覆う。私は膝を抱え、堰を切ったように言葉をこぼし続けた。
「……彼と、結婚の約束をしていたの。指輪も、式場の予約も、全部二人で決めていたのに」
おっぱいを失ったこと、そしてそれがきっかけで、あんなに愛し合っていたはずの彼が手のひらを返したこと。
「手術後、彼が一度だけ病室に来てくれた時の顔、今でも忘れられない。……私を見るその目が、まるで汚物を見るような、そんな冷たいものだった。それからすぐに、彼の中で何かが壊れたみたいに……」
最初は仕事が忙しいと言っていた。でも、それが嘘だと気づくのに時間はかからなかった。
彼のSNS、見覚えのない場所でのデート、そして風俗通い。私という「欠陥品」を切り捨て、彼はまるで羽を伸ばすように別の女を追い求めていた。
「どうして、私がこんな目に遭わなきゃいけないの。癌になったのは、私のせいじゃないのに。……死にたかった。何度も、カッターを握りしめて、この消えない傷跡の上から、もっと深い傷を刻んでしまおうと何度も思った」
私の言葉に、彼女たちは何も否定せず、ただじっと耳を傾けてくれた。
「ひどい……それは本当に、ひどすぎる」
にこるちゃんが憤り、浜辺美波が震える私の手をそっと握りしめる。
夜の闇は深いけれど、今は一人じゃない。
途切れ途切れの、恨みと悲しみの独白は、朝日が昇る気配さえ感じさせないほど、長く、濃く、夜空に溶けていった。