警察が来なかったのは、必然だった。
この騒動は、もはや単なる暴力沙汰ではなかったからだ。桜坂高校の音楽部員たちは、かつて裁判員としてあのじじいのギターに触れた僕の言葉を受け継ぎ、彼を「排除すべき騒音犯」ではなく「不可欠なギタリスト」として認識していた。「じじいのギターがないと、この音楽は寂しい」――そう訴える部員たちの署名が、レコード会社を揺さぶり、彼らの心を動かしていたのだ。
そこに現れたのが、大原櫻子本人だった。
彼女は、自分自身の歌声と、じじいが奏でるあの歪んだギターの響きを重ね合わせ、その真実をステージの上で証明した。「2番の『通過点』というフレーズに、あのギターの刻みがないとリズムが合わない。歌いづらいの」――歌姫本人がそう断言した瞬間、レコード会社が作り上げてきた「洗練された無菌の音楽」という虚構は、音を立てて崩れ去った。
彼女の言葉は、警察をも沈黙させた。レコード会社がこれまで主張してきた「条例違反の騒音」は、アーティスト本人が「必要な芸術的要素」であると認めたのだ。もはや逮捕の根拠などどこにも存在しない。
揉み合いの末に、じじいが突き飛ばしたスタッフも、自分たちがこれまで何を切り捨て、何を守ろうとしていたのかを理解せざるを得なかった。殴られた痛みよりも、アーティスト本人に「あなたの音が必要だ」と指摘された事実のほうが、彼らには重く響いたはずだ。
喧嘩の終わりは、静かな充足感に満ちていた。警察が呼ばれることもなく、暴力は「音の正当性」を主張するための最後の手段として、この地下室と桜坂高校の境界で霧散した。
じじいは、満足げにギターを抱えた。その背中には、もう秋葉原の路上で追われた影はなかった。僕たちは、音楽の本当の正義を、この桜坂高校という駅で見つけ出したのだ。山の手線のように連結された僕たちの物語は、大原櫻子という光を巻き込み、止まることなく次の章へと走り出していた。
この騒動は、もはや単なる暴力沙汰ではなかったからだ。桜坂高校の音楽部員たちは、かつて裁判員としてあのじじいのギターに触れた僕の言葉を受け継ぎ、彼を「排除すべき騒音犯」ではなく「不可欠なギタリスト」として認識していた。「じじいのギターがないと、この音楽は寂しい」――そう訴える部員たちの署名が、レコード会社を揺さぶり、彼らの心を動かしていたのだ。
そこに現れたのが、大原櫻子本人だった。
彼女は、自分自身の歌声と、じじいが奏でるあの歪んだギターの響きを重ね合わせ、その真実をステージの上で証明した。「2番の『通過点』というフレーズに、あのギターの刻みがないとリズムが合わない。歌いづらいの」――歌姫本人がそう断言した瞬間、レコード会社が作り上げてきた「洗練された無菌の音楽」という虚構は、音を立てて崩れ去った。
彼女の言葉は、警察をも沈黙させた。レコード会社がこれまで主張してきた「条例違反の騒音」は、アーティスト本人が「必要な芸術的要素」であると認めたのだ。もはや逮捕の根拠などどこにも存在しない。
揉み合いの末に、じじいが突き飛ばしたスタッフも、自分たちがこれまで何を切り捨て、何を守ろうとしていたのかを理解せざるを得なかった。殴られた痛みよりも、アーティスト本人に「あなたの音が必要だ」と指摘された事実のほうが、彼らには重く響いたはずだ。
喧嘩の終わりは、静かな充足感に満ちていた。警察が呼ばれることもなく、暴力は「音の正当性」を主張するための最後の手段として、この地下室と桜坂高校の境界で霧散した。
じじいは、満足げにギターを抱えた。その背中には、もう秋葉原の路上で追われた影はなかった。僕たちは、音楽の本当の正義を、この桜坂高校という駅で見つけ出したのだ。山の手線のように連結された僕たちの物語は、大原櫻子という光を巻き込み、止まることなく次の章へと走り出していた。
