夕暮れ時、病室の窓から差し込む西日が、消毒液の匂いを少しだけ和らげていた。扉が開き、現れたニコルは、昼間の惨劇が嘘のように明るく笑っていた。
「ねえ、聞いて。朝の話。服、よごしちゃった」
彼女は悪戯っぽく肩をすくめ、自らの不始末を物語るように笑う。だが、その唇が動くたび、かすかな酸味を帯びた異臭が漂ってきた。牛乳の匂い、そして胃の底からせり上がった吐瀉物の残り香。それは彼女が屈辱の中で晒した、生々しい傷跡そのものだった。
テレビの中では、この事件が笑いの種として加工され、FacebookやTikTokのタイムラインを軽薄な笑いで汚染し続けている。彼女の尊厳を削り取り、お笑いのネタとして消費する者たち。その悪意の波が、病院の外でどれほど渦巻いていようと、目の前のニコルはただ、秋生のために強がっていた。
「牛乳、飲んだら気持ち悪くなっちゃったんだもん」
彼女の言葉には、どこか投げやりな響きがあった。しかし、その匂いを嗅いだ瞬間、秋生の胸にこみ上げたのは嫌悪感ではなかった。むしろ、その禁忌と汚れを全身に纏った彼女の姿に、秋生は強烈な衝動を突き動かされた。
「……そんなに、それが欲しいの?」
彼女はすべてを悟ったような視線を秋生に向けた。それは、社会から蔑まれ、汚物と笑われ、それでもなお、この少年の前でだけは自分を許そうとする、救いと破滅が混ざり合った問いかけだった。
「うん……」
秋生は小さく頷いた。頭の中に、地下のクリーンルームへ消えたあかりの面影がよぎる。あかりを想う心と、今、目の前で傷つきながらも自分を肯定してくれているニコルへの情熱。それらは決して矛盾していなかった。秋生にとって、彼女が晒したその「汚れ」こそが、唯一無二の愛の形だった。
「……俺、やっぱりニコルちゃんが好きだ」
秋生は彼女の汚れた服に縋り付いた。吐瀉物の匂いと混ざり合う彼女の体温を、必死に吸い込む。テレビの向こう側で誰かが彼女を笑いものにしようとも、この病室だけは、二人だけの聖域だった。
彼女をネタとして消費する者たちには、この匂いの意味など決して理解できない。秋生はそう確信していた。これはただの汚物ではない。傷つき、それでも生きようとした彼女が、自分自身を捧げた証なのだ。
窓の外では、地上の夕闇が深まり、地下の回廊へと続く夜が始まろうとしていた。秋生は、彼女の衣服から漂うその生々しい匂いに包まれながら、壊れかけた世界の中で、ただ静かに愛を確かめ合っていた。
「ねえ、聞いて。朝の話。服、よごしちゃった」
彼女は悪戯っぽく肩をすくめ、自らの不始末を物語るように笑う。だが、その唇が動くたび、かすかな酸味を帯びた異臭が漂ってきた。牛乳の匂い、そして胃の底からせり上がった吐瀉物の残り香。それは彼女が屈辱の中で晒した、生々しい傷跡そのものだった。
テレビの中では、この事件が笑いの種として加工され、FacebookやTikTokのタイムラインを軽薄な笑いで汚染し続けている。彼女の尊厳を削り取り、お笑いのネタとして消費する者たち。その悪意の波が、病院の外でどれほど渦巻いていようと、目の前のニコルはただ、秋生のために強がっていた。
「牛乳、飲んだら気持ち悪くなっちゃったんだもん」
彼女の言葉には、どこか投げやりな響きがあった。しかし、その匂いを嗅いだ瞬間、秋生の胸にこみ上げたのは嫌悪感ではなかった。むしろ、その禁忌と汚れを全身に纏った彼女の姿に、秋生は強烈な衝動を突き動かされた。
「……そんなに、それが欲しいの?」
彼女はすべてを悟ったような視線を秋生に向けた。それは、社会から蔑まれ、汚物と笑われ、それでもなお、この少年の前でだけは自分を許そうとする、救いと破滅が混ざり合った問いかけだった。
「うん……」
秋生は小さく頷いた。頭の中に、地下のクリーンルームへ消えたあかりの面影がよぎる。あかりを想う心と、今、目の前で傷つきながらも自分を肯定してくれているニコルへの情熱。それらは決して矛盾していなかった。秋生にとって、彼女が晒したその「汚れ」こそが、唯一無二の愛の形だった。
「……俺、やっぱりニコルちゃんが好きだ」
秋生は彼女の汚れた服に縋り付いた。吐瀉物の匂いと混ざり合う彼女の体温を、必死に吸い込む。テレビの向こう側で誰かが彼女を笑いものにしようとも、この病室だけは、二人だけの聖域だった。
彼女をネタとして消費する者たちには、この匂いの意味など決して理解できない。秋生はそう確信していた。これはただの汚物ではない。傷つき、それでも生きようとした彼女が、自分自身を捧げた証なのだ。
窓の外では、地上の夕闇が深まり、地下の回廊へと続く夜が始まろうとしていた。秋生は、彼女の衣服から漂うその生々しい匂いに包まれながら、壊れかけた世界の中で、ただ静かに愛を確かめ合っていた。
