パンデミック.新形コロナウイルス

「浜のガーリック」。
内房線の先、海風が塩気とともにニンニクの力強い香りを運ぶその場所で、老女が営む小さな農園と牧場がある。秋生がカルシウム不足に喘ぐこの閉鎖病棟の現状を打破するために頼ったのは、その場所だった。
だが、救いを求めて手に入れたはずの「牛乳」は、この病院という閉鎖環境において、次々と呪いのような結末をもたらすことになる。
牛乳アレルギーという体質の壁に突き当たった患者たちが次々と倒れる中、何よりの悲劇は、ニコルの身に降りかかった。彼女は秋生のために、カルシウムの恩恵を自分も受けようと「浜のガーリック」の乳を飲んだ。
しかし、彼女の身体はそれに耐えられなかった。
通学のために足を踏み入れた、あの地下道。冷たい空気と無機質なコンクリートの回廊の中で、彼女の腹部は激しく痙攣した。人目も避難場所もない閉ざされた空間で、彼女は防衛本能を失い、泣き崩れながらその場で汚してしまったのだ。
この惨状は、あろうことか「地下道の珍事」としてテレビのバラエティ番組に取り上げられた。彼女の苦悶と屈辱は、画面の向こう側の視聴者を笑わせるための「ネタ」として消費された。
秋生は病室で、そのお笑い番組の録画をじっと見つめていた。画面の中では、芸人たちが大げさに茶化し、観客が湧いている。浜のガーリックの香りが、記憶のどこかでかすかに残っているような気がした。それが、秋生が持ち込んだ栄養剤の末路だった。
彼女の尊厳を汚したその事件は、消毒液の匂いよりも深く、病院と地下道という閉鎖的な世界に、救いようのない絶望を刻み込んでいた。