パンデミック.新形コロナウイルス

クリーンルームの内部は、外の世界から切り離された、まさに「無菌のディズニーランド」だった。
第一のシェルター、すなわち骨髄移植のための準備段階――大量の抗がん剤投与――がようやく終わりを迎えた。あかりの体内では、猛毒の化学薬品が暴れ回り、正常な細胞もろとも「悪い白血球」を焼き尽くしていた。戦果は上々だった。数値は下がり、準備は整った。
だが、そこから先は「空白の二週間」だ。
第二のシェルター、つまり本当の移植へと至るための、命をかけた凪(なぎ)の時間。
その期間、あかりは地下のクリーンルームという名の、巨大なガラスケースの中に閉じ込められていた。地上からの隔離。ドアの向こう側は別の惑星のように遠く、空気の対流すら計算し尽くされた閉鎖空間。
それでも、あかりはその中で、彼女なりの「遊び」を見つけていた。
テレビの電源を入れる。リモコンのボタンを押すたびに、画面の中では明るい笑い声が飛び交い、煌びやかなパレードが繰り広げられる。彼女にとってのディズニーランドは、窓の向こうの庭ではなく、この四角い液晶画面の中にしかなかった。
あかりは、画面の中のミッキーや仲間たちを、ガラスの向こう側にいる空想の友達として配置した。クリーンルームの殺風景な白い壁に、テレビの中の光が反射し、時折、彼女の顔に虹色の模様を落とす。
「見て、秋生くん……」
誰もいない部屋で、あかりは小さく独り言をこぼす。本当は秋生を呼びたい。あの手術室へ行く途中で、少しだけ触れ合ったストレッチャーの温もりを、もう一度感じたい。だが、クリーンルームの鉄壁は、彼女と外部の世界を完全に分断していた。
たとえ一秒でも、ガラスの仕切りを越えて手をつなぐことはできない。その無菌のランドは、誰にも邪魔されない聖域であると同時に、誰一人として立ち入ることを許さない監獄でもあった。
抗がん剤で焼き払われた体は、二週間後の「第二のシェルター」という名の地獄へ向けて、かすかな息を整えているだけ。
あかりは、画面の中のパレードを眺めながら、自分もいつかあの扉の外へ出られると信じていた。それとも、この静寂の中で、もうどこへも行けないことを理解していたのか。
ガラスのこちら側で、秋生は彼女の影を追い、ガラスの向こう側で、あかりは消えゆく命の灯火でテレビの明かりを反射させていた。二人の間にあるのは、透明な膜一枚。しかし、その距離は、宇宙の果てよりも遠かった。