地下の病棟は、太陽を拒絶しなければならない子供たちにとってのシェルターであり、同時に彼らだけの秘密の楽園だ。
色素性乾皮症の子供たちがこの「地下遊園地」に足を踏み入れるとき、僕は厳重なスイッチを入れる。他の子供たちの気配は遮断し、空間を彼らだけのものにする。そして、眩い1895Wの人工太陽は完全に落とされ、照明は夜の街灯のように柔らかく、深い青と黄が溶け合うような淡い光へと切り替わる。
僕たちは、この閉ざされた空間の中に、本物の「空」を再現しようと試みていた。
理科の授業の時間、教室には特別な仕掛けが施される。病院内の購買部(僕らは冗談めかしてヨドバシカメラと呼んでいた)から取り寄せた、特殊な「分離蛍光灯」だ。
黄色と青の光を精密に分離するその灯りを点けると、部屋の壁面に不思議な現象が起きる。片方のレシーバーが光を反射し、漆黒の壁に広大な青空を映し出すのだ。
「先生、これが……空なの?」
地下で生まれ育ったような子供が、その光の青さを見上げて震えるように尋ねる。僕はその光景に胸を打たれながら、彼らのために調整した特殊な照明装置を見つめた。
その技術の根幹にあるのは、僕が愛用しているGalaxy S21の「目の保護モード」のアルゴリズムだった。あの端末がブルーライトを精密に制御し、眼球への刺激を極限まで減らしながらも、画面を鮮明に保つ技術。僕はそれを医療用の照明システムに応用し、紫外線成分を完全に排除しつつ、彼らの視覚にだけ「昼間のような彩度」を届ける蛍光灯を開発した。
紫外線をカットし、彼らの皮膚を傷つけない。けれど、彼らが「空」を見たという実感だけは、しっかりと網膜に焼き付ける。
「そうだよ。これが空だ。君たちがいつか、もしも太陽を恐れなくていい日が来たら、その時に見上げる本物の色だよ」
地下の薄明かりの中で、青い空が壁一面に広がる。人工的で、どこか切ないその光の下で、子供たちは楽しげに遊ぶ。太陽を奪われた彼らが、光を操る技術によって、束の間の「昼下がり」を体験する。
この病院の地下は、ただの病室じゃない。絶望の淵にいる僕らが、科学という杖を使い、神様が用意してくれなかった「当たり前の景色」を捏造する工房なのだ。
夜の街灯のような柔らかな光に包まれた遊園地で、彼らの笑顔が青い光を反射して輝く。その景色を見ているだけで、僕もまた、この過酷な医療の現場で「生きていてよかった」と、思わず歌い出したくなるような、そんな不思議な高揚感を覚えるのだった。
色素性乾皮症の子供たちがこの「地下遊園地」に足を踏み入れるとき、僕は厳重なスイッチを入れる。他の子供たちの気配は遮断し、空間を彼らだけのものにする。そして、眩い1895Wの人工太陽は完全に落とされ、照明は夜の街灯のように柔らかく、深い青と黄が溶け合うような淡い光へと切り替わる。
僕たちは、この閉ざされた空間の中に、本物の「空」を再現しようと試みていた。
理科の授業の時間、教室には特別な仕掛けが施される。病院内の購買部(僕らは冗談めかしてヨドバシカメラと呼んでいた)から取り寄せた、特殊な「分離蛍光灯」だ。
黄色と青の光を精密に分離するその灯りを点けると、部屋の壁面に不思議な現象が起きる。片方のレシーバーが光を反射し、漆黒の壁に広大な青空を映し出すのだ。
「先生、これが……空なの?」
地下で生まれ育ったような子供が、その光の青さを見上げて震えるように尋ねる。僕はその光景に胸を打たれながら、彼らのために調整した特殊な照明装置を見つめた。
その技術の根幹にあるのは、僕が愛用しているGalaxy S21の「目の保護モード」のアルゴリズムだった。あの端末がブルーライトを精密に制御し、眼球への刺激を極限まで減らしながらも、画面を鮮明に保つ技術。僕はそれを医療用の照明システムに応用し、紫外線成分を完全に排除しつつ、彼らの視覚にだけ「昼間のような彩度」を届ける蛍光灯を開発した。
紫外線をカットし、彼らの皮膚を傷つけない。けれど、彼らが「空」を見たという実感だけは、しっかりと網膜に焼き付ける。
「そうだよ。これが空だ。君たちがいつか、もしも太陽を恐れなくていい日が来たら、その時に見上げる本物の色だよ」
地下の薄明かりの中で、青い空が壁一面に広がる。人工的で、どこか切ないその光の下で、子供たちは楽しげに遊ぶ。太陽を奪われた彼らが、光を操る技術によって、束の間の「昼下がり」を体験する。
この病院の地下は、ただの病室じゃない。絶望の淵にいる僕らが、科学という杖を使い、神様が用意してくれなかった「当たり前の景色」を捏造する工房なのだ。
夜の街灯のような柔らかな光に包まれた遊園地で、彼らの笑顔が青い光を反射して輝く。その景色を見ているだけで、僕もまた、この過酷な医療の現場で「生きていてよかった」と、思わず歌い出したくなるような、そんな不思議な高揚感を覚えるのだった。
