病院の地下、無機質なコンクリートの壁に囲まれた診察室で、ふいにレミオロメンの『粉雪』が流れてきた。
スピーカーからあふれ出す切ない旋律は、この病院の地下特有の淀んだ空気と混ざり合い、聴く者の心を容赦なく凍らせる。地上で聴くそれとは訳が違う。ここでは、温度さえもが死の気配を帯びて感じられるからだ。
「……また、冬が来るのか」
僕はカルテを閉じて、冷え切った窓の外を眺めた。
医療の世界において、別れは日常という名のルーチンだ。好きな女性を喪うことも、担当していた患者が夜の間に呼吸を止めることも。そんなことは、この場所ではあまりに当たり前に繰り返される光景に過ぎない。
僕は何度も自分に言い聞かせてきた。割り切れ。感情を殺せ。死を嘆くことは、医師としての職務放棄に等しいのだと。
しかし、この曲を聴くたびに、どうしても抗えない寒さが胸の奥に吹き荒れる。
あかりが、最後に見せてくれたあの儚い微笑み。
そして、あの日の沢尻エリカが残していった、あの熱を帯びた飛沫の記憶。
どんなに医学が進歩しても、僕たちは結局、死という絶対的な結末の前では無力な観客でしかない。死と向き合うことは、自分の心の一部を切り捨てていく作業に似ている。それでもなお、この過酷な現場に立ち続けなければならないのは、なぜだろう。
「……生きているから、悲しいんだな」
僕は誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
悲しみを抱え、凍えるような寒さを肌で感じながら、それでも僕らは今日という日を生きている。割り切ることでしか守れない命がある一方で、割り切れない感情を抱えたまま患者の手を握り続ける医師もいる。
僕は診察室のライトを消し、静寂の中に身を置いた。
粉雪のような孤独が、地下の闇に溶けていく。
明日になれば、また新しい悲しみが僕を待っている。それでも僕は、凍りついた心臓を無理やり動かし、再び白衣を羽織って、あの地下へと続く長い廊下を歩き出すのだ。
スピーカーからあふれ出す切ない旋律は、この病院の地下特有の淀んだ空気と混ざり合い、聴く者の心を容赦なく凍らせる。地上で聴くそれとは訳が違う。ここでは、温度さえもが死の気配を帯びて感じられるからだ。
「……また、冬が来るのか」
僕はカルテを閉じて、冷え切った窓の外を眺めた。
医療の世界において、別れは日常という名のルーチンだ。好きな女性を喪うことも、担当していた患者が夜の間に呼吸を止めることも。そんなことは、この場所ではあまりに当たり前に繰り返される光景に過ぎない。
僕は何度も自分に言い聞かせてきた。割り切れ。感情を殺せ。死を嘆くことは、医師としての職務放棄に等しいのだと。
しかし、この曲を聴くたびに、どうしても抗えない寒さが胸の奥に吹き荒れる。
あかりが、最後に見せてくれたあの儚い微笑み。
そして、あの日の沢尻エリカが残していった、あの熱を帯びた飛沫の記憶。
どんなに医学が進歩しても、僕たちは結局、死という絶対的な結末の前では無力な観客でしかない。死と向き合うことは、自分の心の一部を切り捨てていく作業に似ている。それでもなお、この過酷な現場に立ち続けなければならないのは、なぜだろう。
「……生きているから、悲しいんだな」
僕は誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
悲しみを抱え、凍えるような寒さを肌で感じながら、それでも僕らは今日という日を生きている。割り切ることでしか守れない命がある一方で、割り切れない感情を抱えたまま患者の手を握り続ける医師もいる。
僕は診察室のライトを消し、静寂の中に身を置いた。
粉雪のような孤独が、地下の闇に溶けていく。
明日になれば、また新しい悲しみが僕を待っている。それでも僕は、凍りついた心臓を無理やり動かし、再び白衣を羽織って、あの地下へと続く長い廊下を歩き出すのだ。
