診察室のテレビから流れるあの主題歌が、病院の空気そのものを変えてしまった。
1週間後の火曜日、夜9時。フジテレビの画面の中に、沢尻エリカの演じる亜也がいた。
「やっぱり、エリカちゃんはいいな。……なんて美しいんだ」
僕は思わず声を漏らした。隣でドラマを見ていた看護師や正雄が、呆れたように僕の方を向く。
「先生、またエリカちゃん、エリカちゃんって……。これ、脊髄小脳変性症の子供たちの現実を学ぶための勉強会ですよ? 内容をちゃんと理解して見てるんですか?」
僕の呟きに、彼らはクスクスと笑いながら冷やかしの視線を送ってきた。僕は顔を少し赤らめ、慌てて咳払いをする。
「わ、わかってるよ。内容だって、この病気の過酷さだって、誰よりも理解しているつもりだ」
そう強がってはみたものの、画面の中の彼女が、苦しみの淵でふと見せる儚い微笑みに、僕はどうしても目を奪われてしまう。現実の病棟で日々向き合っている子供たちの痛みと、画面の中の彼女が演じる痛みが、僕の中で混ざり合っていく。
「でも、これだけは言わせてくれ。このドラマには、単なる医療の記録を超えた『何か』があるんだ。誰かを救いたいという意志や、生きることへの渇望が、彼女の表情ひとつひとつに宿っている。だからこそ、僕らは目を背けずに見なきゃいけないんだよ」
理屈ではそう言い繕ったけれど、実際は違った。僕の心は、あかりのいないこの無機質な世界で、彼女という「光」に縋り付いていただけなのかもしれない。
ドラマが進むにつれ、診察室の空気は次第に重くなった。患者の子供たちは、画面の中の亜也に自分を重ね、声を殺して泣いている。それを見て、看護師たちも目頭を押さえている。
僕もまた、カルテを抱えたまま、画面の中の彼女を見つめた。僕たちが戦っているのは、果たしてウイルスや病魔だけなのだろうか。それとも、絶望に飲み込まれそうになる自分自身の心なのだろうか。
「……美しいな」
僕はもう一度だけ、小さく呟いた。それは画面の中の女優に対してなのか、それとも、どんなに壊れてもなお生きようとする人間という存在そのものに対してなのか、自分でもわからなかった。
ただ、火曜日の夜9時。この病院のテレビの前には、医師も患者も、立場を超えたひとつの「軍団」が生まれていた。僕たちはみんな、誰かのせいにすることなく、ただその涙の重さを、画面越しに共有していたのだ。
1週間後の火曜日、夜9時。フジテレビの画面の中に、沢尻エリカの演じる亜也がいた。
「やっぱり、エリカちゃんはいいな。……なんて美しいんだ」
僕は思わず声を漏らした。隣でドラマを見ていた看護師や正雄が、呆れたように僕の方を向く。
「先生、またエリカちゃん、エリカちゃんって……。これ、脊髄小脳変性症の子供たちの現実を学ぶための勉強会ですよ? 内容をちゃんと理解して見てるんですか?」
僕の呟きに、彼らはクスクスと笑いながら冷やかしの視線を送ってきた。僕は顔を少し赤らめ、慌てて咳払いをする。
「わ、わかってるよ。内容だって、この病気の過酷さだって、誰よりも理解しているつもりだ」
そう強がってはみたものの、画面の中の彼女が、苦しみの淵でふと見せる儚い微笑みに、僕はどうしても目を奪われてしまう。現実の病棟で日々向き合っている子供たちの痛みと、画面の中の彼女が演じる痛みが、僕の中で混ざり合っていく。
「でも、これだけは言わせてくれ。このドラマには、単なる医療の記録を超えた『何か』があるんだ。誰かを救いたいという意志や、生きることへの渇望が、彼女の表情ひとつひとつに宿っている。だからこそ、僕らは目を背けずに見なきゃいけないんだよ」
理屈ではそう言い繕ったけれど、実際は違った。僕の心は、あかりのいないこの無機質な世界で、彼女という「光」に縋り付いていただけなのかもしれない。
ドラマが進むにつれ、診察室の空気は次第に重くなった。患者の子供たちは、画面の中の亜也に自分を重ね、声を殺して泣いている。それを見て、看護師たちも目頭を押さえている。
僕もまた、カルテを抱えたまま、画面の中の彼女を見つめた。僕たちが戦っているのは、果たしてウイルスや病魔だけなのだろうか。それとも、絶望に飲み込まれそうになる自分自身の心なのだろうか。
「……美しいな」
僕はもう一度だけ、小さく呟いた。それは画面の中の女優に対してなのか、それとも、どんなに壊れてもなお生きようとする人間という存在そのものに対してなのか、自分でもわからなかった。
ただ、火曜日の夜9時。この病院のテレビの前には、医師も患者も、立場を超えたひとつの「軍団」が生まれていた。僕たちはみんな、誰かのせいにすることなく、ただその涙の重さを、画面越しに共有していたのだ。
