パンデミック.新形コロナウイルス

「結局、優先順位の問題なのです」
私は会議室の沈黙を切り裂くように、あえて声を張り上げた。役人は怪訝そうな顔で私を見ているが、そんなことはどうでもいい。
「あなたがたがコロナ後遺症という『不確かな疾患』に国庫を投入するなら、その財源を削ってでも、直す術を持たない白血病や、ただ死を待つだけの終末期医療に回すべきです。あかりのように、運命という理不尽に抗うこともできず、ただ消えていく命を救うことこそが、医療の本来あるべき姿ではないのですか」
私の言葉に、役人の眉がわずかに動いた。同僚の医師たちも、息を呑んでこちらを見ている。あかりという個人の名前を出した瞬間、会議室の論理が崩れ去る音がした。
「予防できる病に補償を垂れ流し、抗いようのない絶望を切り捨てる。そんな歪んだ優先順位を、私は決して認めない」
役人は鼻で笑った。
「君のような感情論が、国家の財政を破綻させてきたのだよ。医療資源は無限ではない。あかり……君が言ったその患者がどうなろうと、統計上の数字は揺るがない」
その冷徹な回答に、私の胸の中で何かが弾けた。あの点滴混入事件の夜、私たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。しかし、今は違う。理不尽な選別を強いる者たちに対して、私たちは「あかり」という名の、理不尽に奪われた命の記憶を突きつけなければならない。
「数字しか見えないあなたたちには、わからないだろう。だが、たとえ保険点数が下がろうと、一錠一万円の薬が手に入らなくなろうと、私たちはその理不尽を、この病院の地下の記憶と共に告発し続ける」
役人が鞄を閉じる。その音が、戦いの始まりを告げる合図のように響いた。