パンデミック.新形コロナウイルス

真ん中の会議室は、吐き気がするほど冷え切っていた。
「結局、後遺症などというものは、アレルギー疾患の延長に過ぎない。コロナという名札を貼り付けただけの、古い体質の問題です」
休憩室の白く乾いた壁に向かって、一人の医師が吐き捨てた言葉が、今も耳の奥でくすぶっている。味覚や嗅覚の欠落。それらはウイルスそのものの猛威ではなく、もともとアレルギーという爆弾を抱えていた者が、ウイルスを起爆剤として発症したに過ぎないという結論だった。
「それを『コロナ後遺症』と呼び、国から手厚い補償を受けている。現場で泥を啜るように働いている我々を差し置いて、彼らは税金で守られているんだ」
不満は、もはや怒りを超え、病院全体を覆う歪んだ正義へと変質していた。スタッフたちは、この「公的資金の横領」を厚生労働省へ直訴することを決意する。
そんな空気が充満する中、厚生労働省から派遣された役人が会議室に座っていた。
「今の物価高騰に対し、国民の怒りは頂点に達しています」
役人は冷徹に切り出した。彼の視線は、後遺症患者の治療だけで肥え太るこの病院の経営体質に向けられていた。
「この病院の保険点数は引き下げる。一方で、コロナ治療薬の薬価は跳ね上がる。一錠一万円にもなるでしょう」
「それでは、患者が薬を飲めなくなる」
医師が声を荒らげたが、役人は表情一つ変えなかった。
「仕方のないことだ。医療とは、常に選別の歴史なのだから」
会議室の空気が凍りつく。それは病院の地下で燻る、あの点滴混入事件の悪夢を呼び覚ますような、冷酷な宣告だった。
あかり。
その名の響きが、再び私の耳元で鳴った。私たちは、この冷たい選別の歯車の中で、一体何を守ろうとしているのか。