熱を下げるための解熱剤と、身体を支えるための栄養を、二つの管が冷たい無機質さで彼女の血管へと送り込む。点滴の滴る音が、この部屋の唯一の拍動のように響く。
あかりの熱がゆっくりと引き、焼けるような熱を帯びていた肌が、少しずつ平穏な温度を取り戻していく。僕は、その熱が完全に消えるまで一秒たりとも見逃したくなかった。いや、本当は違う。彼女の指先を握りしめ、そのわずかな脈動を僕自身の体温で確かめたかっただけなのだ。
眠りに就いたあかりの手を、僕は自分の手で包み込んだ。彼女はときおり、無意識のうちに指先をがさがさと動かす。熱が下がり、肺の閉塞感が和らぎ、呼吸が楽になったのだろう。
それが、医療従事者としての僕を最も苦しめた。
「治す」という本来の目的は、とうの昔に崩れ去っている。骨髄移植も、過酷な延命措置も、彼女にとってはただの拷問でしかない。僕が行っているのは、病を根絶するための治療ではなく、彼女の終わりを少しだけ先延ばしにするための、あまりに無力で気休め的な処置に過ぎない。
延命とは、命を繋ぐことではない。彼女が苦しみから解放されるまでの時間を、ただいたずらに引き延ばすだけの残酷な猶予だ。
正夫や他のスタッフが求める「医療」を、僕はここで放棄している。けれど、この気休めのような点滴一本に、僕の持てるすべてを込めるしかない。他に何ができるというのか。彼女の命を救えない代わりに、せめて今夜、彼女が熱にうなされることなく眠れるようにすること。それが、今の僕にとっての「愛」であり、同時に医療従事者として抱える底なしの絶望だった。
あかりは、時折苦しげに眉をひそめながらも、僕の手を握り返してくる。その力強さに、僕は自分が今、死の淵に立つ少女の最後を「管理」しているのだという現実に押しつぶされそうになる。
誰も見ていない地下室で、僕は彼女の温もりを貪りながら、来るべき終わりを待っている。治せないと分かっていて、それでも点滴のスイッチを切ることができない。この偽善的な優しさこそが、終末期医療という名の地獄の正体なのだと、握りしめた彼女の手から痛いほど伝わってきた。
あかりの熱がゆっくりと引き、焼けるような熱を帯びていた肌が、少しずつ平穏な温度を取り戻していく。僕は、その熱が完全に消えるまで一秒たりとも見逃したくなかった。いや、本当は違う。彼女の指先を握りしめ、そのわずかな脈動を僕自身の体温で確かめたかっただけなのだ。
眠りに就いたあかりの手を、僕は自分の手で包み込んだ。彼女はときおり、無意識のうちに指先をがさがさと動かす。熱が下がり、肺の閉塞感が和らぎ、呼吸が楽になったのだろう。
それが、医療従事者としての僕を最も苦しめた。
「治す」という本来の目的は、とうの昔に崩れ去っている。骨髄移植も、過酷な延命措置も、彼女にとってはただの拷問でしかない。僕が行っているのは、病を根絶するための治療ではなく、彼女の終わりを少しだけ先延ばしにするための、あまりに無力で気休め的な処置に過ぎない。
延命とは、命を繋ぐことではない。彼女が苦しみから解放されるまでの時間を、ただいたずらに引き延ばすだけの残酷な猶予だ。
正夫や他のスタッフが求める「医療」を、僕はここで放棄している。けれど、この気休めのような点滴一本に、僕の持てるすべてを込めるしかない。他に何ができるというのか。彼女の命を救えない代わりに、せめて今夜、彼女が熱にうなされることなく眠れるようにすること。それが、今の僕にとっての「愛」であり、同時に医療従事者として抱える底なしの絶望だった。
あかりは、時折苦しげに眉をひそめながらも、僕の手を握り返してくる。その力強さに、僕は自分が今、死の淵に立つ少女の最後を「管理」しているのだという現実に押しつぶされそうになる。
誰も見ていない地下室で、僕は彼女の温もりを貪りながら、来るべき終わりを待っている。治せないと分かっていて、それでも点滴のスイッチを切ることができない。この偽善的な優しさこそが、終末期医療という名の地獄の正体なのだと、握りしめた彼女の手から痛いほど伝わってきた。
