パンデミック.新形コロナウイルス

あかりの吐息は、以前よりも熱を帯びていた。唇に触れた際、風呂の湯のように焼けるような熱さが指先に伝わった。こっそり持ち込んだ体温計は、37.5度という数字を叩き出した。平熱よりも一度以上高い。
白血病という名の進行する影が、彼女の体を蝕んでいる。治療をやめた今、数値を測ることに意味などない。検査を繰り返せば、針に刺され、血を流し、彼女はただ弱り、泣くだけだ。だから、僕はあえて「何もしない」という残酷な優しさを選んだ。
唯一行ったのは、彼女の口内に残るわずかな飛沫を採取し、PCR検査にかけることだった。結果は陰性。流行り病ではない。これは彼女の命が、ゆっくりと終わりへと向かっていることの証明に過ぎない。
「……ごめん。直してやれなくて、本当にごめん」
眠る彼女の枕元で、僕はただ繰り返すことしかできなかった。彼女の口内はすでに乾燥しきり、唾液さえも失われかけていた。僕は自分の口に水を含み、口移しで彼女の唇へと運ぶ。彼女を潤すため、あかりの名前を呼ぶため、僕は一日中その名前を唱え続けていた。
「あかり……あかり、愛してる」
喉を潤そうとした水が、眠りの中の彼女の器官に入り込んだのだろう。あかりは小さくむせ返り、苦しげに咳き込んだ。その身じろぎさえも、今の僕にはあまりに愛おしく、慈しむべき命の輝きに見えた。
むせて、咳き込み、顔をしかめる。その脆く、儚い苦しみでさえ、僕は自分のものにしたかった。彼女の熱を帯びた体温と、むせ返る無防備な姿を見て、僕は再び激しい愛情に突き動かされる。
治すための医療ではない。彼女が消えていくその瞬間まで、その生の残滓を、苦しみさえも貪り尽くすための時間。
僕は彼女の震える肩を抱き寄せ、熱を持った頬に自分の頬を押し当てた。彼女が息を引き取るまで、いや、引き取った後でさえ、僕はここで彼女の名を呼び続けるだろう。世界がどれほど清潔を求めようと、どれほど僕たちを汚物として切り捨てようと、この地下の闇の中では、僕たちの熱だけが、唯一の真実だった。