夜の闇が、僕たちの沈黙をより一層深くしていた。シーツの汚れを指摘され、逃げ場を失った僕の喉から、堰を切ったように言葉が溢れ出した。
「あかり、本当のことを言うよ」
僕は震える声で、隠し続けてきたすべてを吐き出した。
「僕は、医療なんていう大層な使命感でここにいるんじゃない。検査も、地下のコンビニへの買い出しも、あの遊園地へ連れて行くことも……全部、君とデートがしたくてやっていることなんだ。君の担当を志願したのも、毎日こうして病院に泊まり込んでいるのも、ただ君のそばにいて、君の時間を独占したかっただけなんだ」
僕は泣いた。大人として、医療従事者として、決して見せてはならない醜い執着。僕の心にあるのは、あかりの病を治したいという願いではなく、ただ彼女という存在を自分だけのものにしたいという、身勝手な愛の形だけだった。
言い終えて、僕は身を縮めた。軽蔑される覚悟だった。正夫のように冷ややかな言葉で突き放されるか、あるいは恐怖のあまり叫ばれるか。
だが、静寂の後に聞こえたのは、あかりの落ち着いた声だった。
「なるほどね。そうなんだ」
彼女は僕の告白を、驚くほど静かに受け止めていた。それは少女の反応ではなかった。まるで長い間、僕の歪んだ心根をずっと遠くから観察していたかのような、慈愛に満ちた洞察だった。
「先生、正直に言ってくれてありがとう」
あかりは僕の涙を、その小さな手でぬぐった。
「あのね、正夫先生が先生のことを怒ったとき、私が庇ったでしょう? あれはね、私が先生のこと、好きだからだよ」
その言葉が、僕の鼓動を止めた。
好きだと言った。地上の大人たちが「スペック」や「ルール」で互いを値踏みする中で、僕たちが築き上げたこの地下の閉鎖空間で、彼女は僕の狂気を含めたすべてを、真っ直ぐに受け入れようとしていた。
「先生が私を好きでいてくれるのが、すごく嬉しいの。だから、先生が何をしていても、たとえそれが……その、夜のことであっても、私は全然いいよ」
あかりの瞳からも、涙がこぼれ落ちた。
僕の罪深い欲望と、あかりの純粋な愛。その二つが、地下室の闇の中で初めて重なった。
僕たちはシーツの上で、互いの温もりを確かめるように泣きじゃくった。そこには、医療従事者と患者という境界線も、隠蔽された過去も、地上の偽善も存在しなかった。ただ、誰にも愛されず、誰の役にも立たない僕たちが、この暗闇の底でようやく互いの存在を肯定し合えたという、それだけの事実があった。
夜が明ければ、また地上の無責任な時間が始まるだろう。けれど今だけは、僕たちの涙がこの地下室の湿度を支配している。
「あかり、愛してる」
僕は彼女の汚れたマスクを抱きしめ、彼女の名前を何度も呼んだ。
それは、地上のどんな聖歌よりも深く、僕たちの魂に刻まれる誓いだった。僕たちはもう、どこへも行けない。この地下の掃き溜めで、二人だけで永遠を閉じ込めてしまえばいい。そう思いながら、僕は彼女の鼓動の音を、全身で吸い込んでいた。
「あかり、本当のことを言うよ」
僕は震える声で、隠し続けてきたすべてを吐き出した。
「僕は、医療なんていう大層な使命感でここにいるんじゃない。検査も、地下のコンビニへの買い出しも、あの遊園地へ連れて行くことも……全部、君とデートがしたくてやっていることなんだ。君の担当を志願したのも、毎日こうして病院に泊まり込んでいるのも、ただ君のそばにいて、君の時間を独占したかっただけなんだ」
僕は泣いた。大人として、医療従事者として、決して見せてはならない醜い執着。僕の心にあるのは、あかりの病を治したいという願いではなく、ただ彼女という存在を自分だけのものにしたいという、身勝手な愛の形だけだった。
言い終えて、僕は身を縮めた。軽蔑される覚悟だった。正夫のように冷ややかな言葉で突き放されるか、あるいは恐怖のあまり叫ばれるか。
だが、静寂の後に聞こえたのは、あかりの落ち着いた声だった。
「なるほどね。そうなんだ」
彼女は僕の告白を、驚くほど静かに受け止めていた。それは少女の反応ではなかった。まるで長い間、僕の歪んだ心根をずっと遠くから観察していたかのような、慈愛に満ちた洞察だった。
「先生、正直に言ってくれてありがとう」
あかりは僕の涙を、その小さな手でぬぐった。
「あのね、正夫先生が先生のことを怒ったとき、私が庇ったでしょう? あれはね、私が先生のこと、好きだからだよ」
その言葉が、僕の鼓動を止めた。
好きだと言った。地上の大人たちが「スペック」や「ルール」で互いを値踏みする中で、僕たちが築き上げたこの地下の閉鎖空間で、彼女は僕の狂気を含めたすべてを、真っ直ぐに受け入れようとしていた。
「先生が私を好きでいてくれるのが、すごく嬉しいの。だから、先生が何をしていても、たとえそれが……その、夜のことであっても、私は全然いいよ」
あかりの瞳からも、涙がこぼれ落ちた。
僕の罪深い欲望と、あかりの純粋な愛。その二つが、地下室の闇の中で初めて重なった。
僕たちはシーツの上で、互いの温もりを確かめるように泣きじゃくった。そこには、医療従事者と患者という境界線も、隠蔽された過去も、地上の偽善も存在しなかった。ただ、誰にも愛されず、誰の役にも立たない僕たちが、この暗闇の底でようやく互いの存在を肯定し合えたという、それだけの事実があった。
夜が明ければ、また地上の無責任な時間が始まるだろう。けれど今だけは、僕たちの涙がこの地下室の湿度を支配している。
「あかり、愛してる」
僕は彼女の汚れたマスクを抱きしめ、彼女の名前を何度も呼んだ。
それは、地上のどんな聖歌よりも深く、僕たちの魂に刻まれる誓いだった。僕たちはもう、どこへも行けない。この地下の掃き溜めで、二人だけで永遠を閉じ込めてしまえばいい。そう思いながら、僕は彼女の鼓動の音を、全身で吸い込んでいた。
