パンデミック.新形コロナウイルス

いつしか、僕の白衣は医療の現場で命を救うための鎧であることをやめた。それは、あかりを連れ出すための、都合の良い免罪符へと成り果てていた。
地下のコンビニへ向かう道すがら、遊園地へと続く薄暗い廊下、あるいは冷ややかな検査室。それら全てを、僕は「仕事」という口実で塗りつぶし、あかりとの「デート」へと変えていった。病院という閉鎖空間は、僕にとっての愛の巣であり、医療という行為は、彼女を独占するための正当な理由だった。
あかりの隣で眠る夜が、僕の日常になった。
他の子供たちの寝息が止んだ深夜、病棟には重い沈黙が満ちる。その闇の中で、僕は一人、彼女の気配を感じながら、あるいは彼女の面影を追いながら、自らの欲望に溺れていた。
あの日も、そうだった。
病室の薄明かりの中、僕は自分の衝動を抑えることができず、荒い呼吸を繰り返していた。シーツに染み込む、隠しようのない現実。
「……先生、何してるの?」
不意に降ってきたあかりの声に、僕は凍りついた。
布団から身を起こしたあかりが、怪訝そうに僕の足元を見つめている。暗闇の中でも、シーツがひどく汚れていることは彼女にも分かったはずだ。
言葉など、出てくるはずがなかった。
医療従事者としての矜持も、大人としての分別も、あかりの無垢な視線の前では無力なゴミ屑に等しい。僕はただ、呼吸を止めて立ち尽くすしかなかった。
あかりは、すべてを知っていた。
いつからか、彼女は僕の視線に宿る歪んだ情熱に気づいていたのだろう。あのコンビニで僕が靴底で彼女の汚物を踏みしめた日から、あるいは僕がマスクを奪い取ったあの日から。彼女は、僕の狂気という名の迷宮の中に、とっくに迷い込んでいたのだ。
「……誰にも言わないから。黙っておいてあげる」
あかりの声は、あまりに淡々としていた。
それは救いではなかった。むしろ、僕の醜態をあかりという少女に見透かされ、憐れまれているという残酷な事実の突きつけだった。
「汚しすぎだよ……先生、バカなの?」
怒ることもなく、ただ呆れたように呟くあかり。僕が彼女のために用意したはずの情熱は、彼女から見れば、ただの制御不能な不潔な衝動に過ぎなかった。
僕は、医療従事者であることを完全に捨てた。
患者を守るべき人間が、患者のシーツを汚し、その少女に「静かにして」と懇願し、あまつさえ彼女に掃除の心配をさせている。これほどまでに滑稽で、これほどまでに救いようのない獣が、この病院にいるだろうか。
だが、僕はその惨めさに甘んじることを選んだ。
あかりが僕を見捨てないというのなら、僕はどれほど汚れてもいい。地下室という名のこの聖域で、僕は彼女の優しさと呆れに縋り付きながら、崩れ落ちていく自分の精神を、ただ静かに見つめていた。