「…だんまりかよ」
武がこちらに聞こえるか聞こえないかの声で何かを呟く。
そして…
「紅、お前が何思ってんのか知らねぇけどお前に勝ちを譲られた所で俺はただ腹ただしいだけなんだよ」
と一言吐き捨てて私に背を向け、武は1人で会場に戻ってしまった。
「…」
その背中を1人ただ黙って見送る。
全てわかっていたのなら武の性格なら怒って当然だ。
私と武は同い年故ずっと比べられ、その環境の中、ずっとお互いを意識して競い合ってきたライバルだった。
武は私が女であっても手加減一つせず対等であり続けた。いい意味で私を女として見ていなかった。だから私もそれに応え続けた。
そんな私がそれに今回初めて応えなかったのだ。それは全力だった武を怒らせるには十分で。
「んー」
私は1人唸り声をあげていた。
武が思っていたよりも聡明だった。そして私の判断が甘かった。この2つが今回の事態を招いた原因と言えよう。
さて武に何て声をかけるのが正解なのだろうか。
まだ私たちは高校1年生。私たちが仲違いするのにはまだ1年も時間があるはず。
1度目にはなかった事態に私はどうすればよいのかわからずその場でしばらく頭を抱えていた。



