「…どうしたの?」
訳がわからなくて武に問う。
怒っている。それは武の様子を見てわかった。
だけど何故武は怒っているのか。
前回、武が私に勝った時そもそもこんなことにはならなかった。
武は確かいつものように笑顔で私と握手をして「紅もすごかった」的な言葉をかけられたはずなのに。
「…っ、来い」
困惑している私に何か言いたげな武が私の右手を荒々しく掴んだ。
そしてそのまま会場の外へ連れ出された。
「何考えているんだよ、お前」
誰もいない会場の外でまず最初に武にかけられた言葉はそれだった。
「へ?突然何?」
「自覚くらいあるだろうが」
「何の?」
「さっきの実戦だよ」
首を傾げ続ける私にすごい形相で、だが静かに私を責め立てる武の声。
いつもうるさいくらいの武がこんなに静かなのだ。武は相当怒っている。内容的におそらく私がわざと負けたことに。
「…全力だったよ?あの距離での攻撃は避けられないし、咄嗟のことで火も出せなかった」
ここは何とか武の怒りを収めよう。
とりあえず武の誤解だと思わせようと困惑した表情を浮かべてみた。
「何が全力だ。あの程度の水なら今の紅なら簡単に消せたはずだ。そもそもあの距離に詰めてきた時点で負けに来ているのと同じだろう。紅の実力で詰めてくる意味なんてない」
そんな私に対して、武は変わらず私を責め立て続ける。
「何でわざと負けるようなことをしたんだよ」
そして最後には思いっきり睨まれた。
この様子からして武はしっかり先程の一戦を分析し、状況を理解している。
まずい。誤魔化しきれない。
「……」
何を言えばいいのかわからず私は黙ってしまった。いい言い訳が全く思い付かない。



