「紅はさ、自分が周りからどんな目を向けられているかもっと気にした方がいいよ」
「へ?」
やっと朝食を食べ出したかと思うと、蒼がこちらを見ることなく、淡々と訳がわからないことを言い出す。
いきなり何?
「こんな美少女にしか見えない美少年が無防備に寝癖も治さず部屋着で一人で居たらどんな男でも手を出したくなるよ?」
「…えぇ、俺、男だよ?」
「ここ男子校。みんな飢えてるし、紅は男でもいいから手ぇ出したくなるタイプ」
「何それ、怖」
つまり蒼はこう言いたいのだ。今の私はまだまだ隙がある、と。
言われてみればそうだと思う。以前の私なら今日のようなだらしない格好で表に出なかったし、とにかく儚く、何より近寄りがたいオーラを出すようにしていた。
これも全ては朱に甘やかされた大変残念な結果である。やってしまった。
「気をつけるよ、蒼」
朝食を食べ続けながら蒼に指摘されたことを私は反省した。この会話の間に私は蒼のことをちらりとも見ていなかった。だから気づかなかった。
「本当、気をつけてね?紅ちゃん」
私の耳元でそう蒼が囁く。私と蒼の距離はほぼ0。先程まで普通の距離で食事をしていたのにいつの間にか蒼は私に体を寄せていた。
「…っ!」
いきなりの予想外な出来事に思わず驚き、目を見開く。そしてその距離の近さによりすぐに羞恥心が私を襲い、顔がゆでダコのように真っ赤になった。



