顔が見えないように長めのウィッグを選んだが迂闊だった。

いっそ丸坊主にして筋肉スーツでも着ればよかった。反省だ。



「で、紅はどうしてここ数日こんなところで料理なんてしていたんだ?何か食べたければ取り寄せればいいだろう?」



反省しながらも片付けを再開した私を琥珀が不思議そうに見つめる。


どうして、て…。



「朱が俺のチョコレートが欲しいって言うからいろいろ試作していたんだよ」

「…ふーん」



琥珀の方は特に見ずに答えた私にいつものあまり感情のない琥珀の声が相槌を打つ。

そしてほんの少しだけ琥珀は黙った。
何かを考えている様子だが、私はそれを気にすることなく黙々と片付けを済ませていく。



「…バレンタインだからか」



少しの沈黙後、琥珀はどこか納得したような声でそう言った。

どうやら朱の願いの意味でも考えていたようだ。



「そうそう。バレンタインだから俺のチョコレートが欲しいんだって」



そんな琥珀に私は流れるように話をする。


あ。


バレンタインで私のチョコレートが欲しいって朱が私のことを好きだって言ってるようなものだよね?それを私は琥珀に言っちゃった?



「兄弟だからね。弟として甘えているみたいで。可愛いよね」



ここで焦ってしまっては琥珀に不自然がられる。
だから私はあくまで自然に言い訳をした。

琥珀はどう思っているのか気になってチラリと横目で琥珀を見てみる。

すると琥珀は何故か真剣な表情で私を見つめていた。


な、何?