白拍子の仕事の一つに主人の夜の相手をするというものがある。時雨は何度も桜鈴と夜を共にしてきたが、今では本当の愛を持って桜鈴に接するようになっていた。

「……愛しているぞ、桜鈴」

「わ、私もお慕いしております……」

口付けをし、桜鈴に時雨がそう言うといつも桜鈴は顔を赤くする。未だに桜鈴は甘い言葉や口付けに慣れないのだ。

また時雨が桜鈴に触れようとした刹那、「失礼いたします。村雨(むらさめ)様がお見えになりました」と女中がやって来る。時雨は桜鈴に触れようとした手を引っ込め、「村雨が?」と呟いた。

村雨は時雨のいとこだ。時雨よりも権力を持っている。

「時雨、久しぶりだな」

束帯をしっかりと着こなした村雨が時雨の前に姿を見せる。時雨も「お久しぶりですね」と微笑んだ。

「今日はどう言ったご用件で?」

「実は、ここに美しい白拍子がいると聞いてな。……君のことか?」

村雨の目は桜鈴に向けられている。その村雨の目に時雨の胸はドクンと嫌な音を立てた。