「何かしら?」

「旦那様が桜鈴様にぜひ見せてほしいと仰られてので持って参りました」

そう言い時雨が女中に持って来させたのは、西アジアやインドから伝わった宝物の数々だった。

「綺麗……」

日本にはない漆の水差しや瑠璃坏、貝細工鏡の美しさに桜鈴は目を細める。異国の宝物に優しく触れ、「ありがとう」と時雨に微笑んだ。

「いえ、お礼を言われるほどでは……。そうだ!」

時雨は照れたように笑った後、五弦琵琶を手にする。そして五弦琵琶を演奏し始めた。優しく、上品な演奏が桜鈴の部屋に響き渡る。桜鈴はその演奏に心を動かされていた。

「桜鈴様?」

時雨の言葉に、桜鈴は初めて自分が泣いているのだと気付く。もう隠しているのは限界に近かった。

「時雨、私はあなたのことを愛しています。あなたはどんな宝物よりも美しい」

桜鈴はそっと時雨に近づき、時雨の大きな手を取る。その間も止めどなく涙はあふれていた。しかし、桜鈴は微笑みながら時雨を見つめ続ける。