「周りはいつも同じことばかり言うわ。あなたも私と歳が変わらないのにそんなことを言うのね」

桜鈴がそう言うと、「当たり前です」と時雨は真剣な顔をした。桜鈴は「出て行ってちょうだい」と時雨から目を背ける。時雨は黙って部屋から出て行ってくれた。

桜鈴が貴族の男性と会わないのは、時雨に想いを抱いているからだ。もともと彼は桜鈴の話し相手としてこの屋敷に仕えることになった。どんな無茶も許してくれる時雨にいつしか桜鈴は恋をしてしまったのだ。

しかし、この時代は自由に恋愛するなど許されない。貴族の娘として生まれたならば、貴族の男性と結ばれる運命となっている。

「どうしてこんな形で会ってしまったのかしら……」

ポツリと呟いた桜鈴の頬を、涙がそっと撫でていく。どれだけ泣いても、想っても、この恋は届くことも叶うこともない。

「桜鈴様、旦那様がお呼びです」

時雨の声が聞こえてくる。桜鈴は慌てて涙を止め、「今は行けないと伝えなさい」と言った。泣いていたことがバレてしまう。この恋は、誰にも話せない。