「逃げなさい!早く!」
豪華なドレスに身を包み、
王妃の称号であるティアラ
いつも、堂々としている王妃の姿は
あの日そこにはなかった
人々の悲鳴や罵声、何かが壊れる音、
城内に蔓延していく煙、全てを焼き尽くす炎、
何かが焼ける匂い
「いや!お母様は?!」
必死に手を伸ばし煤で
汚れたドレスにしがみつく
「大丈夫よ」
王妃は、安心させるように
かがんで視線を合わせると微笑んだ
美しい金髪に同じ色をした瞳
涙をいっぱいに溜めてこちらを
見上げてくる少女の頭をなでる
「生まれてきてくれてありがとう
貴方は私の誇りだわ
幸せになりなさい」
一筋頬を伝う涙をぬぐってやると
少女の後ろに立つ少年に向き直る
漆黒の髪に同じ色をした瞳
その少年からはなんの感情も読み取れず
いつもの無表情で王妃を見上げていた
「この子を、よろしくお願いします」
深々と頭を下げ顔を上げた王妃の顔はすでに
母親の顔ではなく、1人の女戦士の顔になっていた






ファークライト王国
ゼクノ国王 反逆者に首をとられ死亡
その後を追うように、
アイリナ王妃 炎に巻かれて焼死
齢10の王女 行方不明または亡命