「覚えてるよ。チサの好きなところ」
「……っ」
わずかに目を細めて優しく笑うその表情に息を呑んだ。
「次、純恋ちゃんの番」
「えっ、あ、そっか、はいっ」
慌てて待っていた台本に視線を落としてセリフを確認する。
只今、曜さんに頼まれて、今度彼が主演するドラマのセリフの練習に付き合っている最中。
「……いまさら、な、なんなの?」
演技なんてまったくしたことのない私は、目の前の台本に書かれた文字を読み上げることでいっぱいいっぱいで。
そんな私とは真逆で、すごく落ち着いていてスラスラセリフの出てくる曜さん。
さすがプロ。
こんな間近であの朝ドラ出演 渕野曜のお芝居を見ているなんて。
お金を払わないといけない状況だと感じていると、ヒタッと私の頬が温かいものに包まれた。
え……。
ゆっくりと台本から目を上げると、曜さんがこちらをジッと見つめていて。
頬に触れているものが彼の手のひらだということに気がつく。
……嘘。
曜さん、読むだけだって……言ってたのに。



