「それに、うまかった。カレー」

「えっ、あ、ありがとうっ」

「ん」

とドア越しに小さな返事が聞こえて。

ちょうど着替えが終わった私は、遠慮がちに引き戸を開けた。

すぐ横の壁に相良くんが背中を預けていて、チラッとこちらを見た。

心臓がトクトクと音立てる。
なに、この感覚。

彼のこと、ちょっと苦手かもと思っていたはずなのに。

あんなふうに褒められたあとに顔を見たら、なんだか嬉しくて身体の中がくすぐったくて。

「遅い」

うっ。
ちょっと安心したらすぐこれだ。
優しいなあと思っていたのに。

「だって、相良くんがゆっくりでいいって言ったから……」

「だからってゆっくりしすぎ。ほら」

やっぱり私には少々当たりの強い彼に唇を尖らせていたら、脱衣所に入って行った相良くんがドライヤーを差し出してきた。

「あ、ありが───」

「早く乾かして寝ろ」

「なっ」

───バタン。

お礼を言う前に、扉を閉められてしまった。

なに今の態度!!

いや確かに長風呂だったことも、鍵を閉め忘れてたことも申し訳ないけど!!

だからって……。

……っ、わ、分からん!!
相良雫久!!