「特に唯十のファンみたいだけど、自分は特別だとか思い上がるなよ」

「え……」


だらしのないニヤけ顔に気づかれてしまったらしく、相良くんが今までよりも少し低い声でチラッと睨みながら言うので思わず固まってしまった。


「アイドルとファンの線、ちゃんと引けってこと」

な、なにそれ。

確かに今、つい顔に出てしまったかもしれないけど、そんな言い方あるかね。

相良雫久、やっぱりイヤなやつだ。

「……わ、わかってるよっ」

「は、ちょ」

相良くんの言葉にムッとしてしまって、歩くスピードを速めると。

「道わかんないのに前歩いていいのかよ」

手首を後ろから掴まれてそのまま彼の隣へと戻されてしまった。


翔以外の男の人に手首を掴まれたのが初めてで、男の人にしては少しほっそりした白い手が意外にも骨張っていて、ドキリとしてしまった。


しかも、スーパーまでの行き方を知らないのも事実だし。


一見、冷たく見えるけど、シェアハウスを出てからずっと車道側を歩いてくれているのも、歩きながら歩幅を私に合わせてくれているのも、気づいているから。


なんだか相良くんといると調子が狂ってしまう。