「ていうか、丸山さんこそ、自分は自己紹介しないままだったもんな」
「えっ?!そうだっけ?!」
「そうだよ。俺の名前だけ聞いて満足してすぐカニ探し始めた」
「カニっ」
懐かしすぎて思わず吹き出す。
テキトーな冗談しか言わないおじいちゃんの話を間に受けて、四葉のクローバーを探す感覚でカニを探していたっけ。
「だから俺、おばさんが丸山さんのこと『みーちゃん』って呼んでるの聞いて、それから真似して呼ぶようになったんだよ。改めて名前聞くのもなんか恥ずかしくて」
「そうだったんだ。かわいいね、昔の相良くん」
思わず漏れた『かわいい』にまた相良くんの顔が赤くなる。
「純恋って名前であだ名がみーちゃんなのもちょっと珍しい気がするけど」
「だよね。うちのおばあちゃんの名前が『スミ』だったから、こっちでは『みーちゃん』って呼ばれてたんだ。最初、おばあちゃんがしょっちゅう自分が呼ばれてるって間違えちゃうこと多くて」
「なるほどね……」
お互いにそんな偶然が重なって、本名を知らないまま。
数十年の時が経って、音楽を通して大切な思い出を思い出すことができて。
なんとも言えない温かい気持ちに胸がいっぱいになる。



