「あ、この木、丸山さんが上ろうとして俺注意したんだよ」
歩いている途中、大きな木を見つけて相良くんが立ち止まった。
「あはっ、そうだそうだ!泣きそうになりながら必死に止めようとするカイトくんの姿がちょっと面白くて……」
「なにそれひどい」
「ごめんって!」
『カイトくん』
そう言いながら、私の中で疑問が湧く。
「相良くん、なんであのとき、自分の名前はカイトだって言ったの?」
そう聞くと相良くんがスッと目を逸らした。
「それは……」
小さくなる相良くんの声に耳を傾ける。
心なしか頬が少し赤くなってる気がした。
「……雫久って名前がいやで。学校で『女みたい』ってからかわれたことがあって。その、丸山さんには、カッコつけたかったんだと思う」
カッコつけ……。
そんな理由で……。
も、ものすごくかわいいっ!!
今の相良くんからは想像もできないセリフすぎて、ジッと彼のことを見てしまっていると。
「んな目で見んな」
「あっ、ちょっ!」
ちょっと雑に彼の手のひらが私の視界を覆い隠した。
……恥ずかしがっているのかな。相良くん。



