……そっか。

私、相良くんにあんな風に迫られて嬉かったんだ。

『雫久って呼んでよ』

そうお願いされたのが嬉しかった。
なのに……。

それを相良くん本人は忘れて欲しがっている。

「……あの時言ったことは、全部嘘ってこと?」

期待通りにはならない。
翔のことで散々思い知ったくせに。

また同じ間違いをしようとしていた。

「……うん。丸山さん、忘れるの得意でしょ。だから──」

……なにそれ。

「わかったよ。わかった。うん、全部忘れる」

彼の顔を見ないまま笑って、逃げるように洗面所を後にした。

曜さんのおかけで、せっかく前へ進もうって思えていたのに。

忘れてと言われたら、どう向き合ったらいいかわからない。

相良くんにとってあれはなかったことにしたいってことで。

曜さんにお似合いだって言われて浮かれてしまっていたのがいけなかった。

やっぱり、もう一度恋なんてしちゃいけなかったんだ。

そもそも相手は大スター。
住む世界が違うんだから。