「いや、わかってる。だから手短に話すから。ふたりのことも呼んできてくれる?」

宗介さんがそういうと男の人は「うん」と返事をして。

(よう)く〜ん、雫久(しずく)〜」

彼がリビングの奥に向かってほかの人たちに声をかけるのが聞こえてからすぐ、ドアの開く音がした。

「あぁ、この間言ってた新しいシェフの人だっけ?」

さっきの男の子たちと明らかに違う、大人の男の人の声と。

「肝心のそのシェフが見当たらないけど」

抑揚のない声。

っていうか、私は見学って言ってたのに、宗介さん『シェフ』が来る、なんて皆さんに言ったのかな?!

まだ了解したわけじゃないし、しかも『シェフ』って。

なんの資格もないただの女子高生なんですが。

「あぁ、あれ?純恋ちゃん?」

「……っ、」

てっきり皆さんの見えるところに私がいると思っていたらしい宗介さんが、

慌てた様子でこちらを振り返った。

「そんなに怯えなくても大丈夫だから」

「っ、はい……」

「うん。はい、注目!この夏の間、キミたちの食事を準備してくれる、丸山純恋さんです」

「え、ちょ、宗介さん、まだ見学の段階で、決まったわけじゃ……」

慌ててそう訂正しようとしたのに。

宗介さんに前に出るように背中を押されて、思わず下を向く。