『俺、好きな人いるから』


初めて聞いた。

私の知らない翔の顔。


幼なじみとして隣で見てきた限り、翔が女の子と付き合うことなんて一度もなかったし、

学校でも、翔のそういう浮いた話を聞いたこともなかった。


そんな翔が唯一、幼なじみの私とは小学生の頃からずっと一緒に登下校しているし

クラスの友達にも、

『本当は付き合っているんでしょ』とか『早く付き合えばいいのに』

って言われることもしょっちゅうで。

少女漫画の中でだって、幼なじみの男女って最終的には一緒になるシナリオだし、

だからてっきり、

私と翔もそうなるもんなんだと思ってた。


『好きな、人?』


一度もそんな話してくれなかったくせに。


『うん。純恋も知ってると思うけど、うちのマネージャーの倉田さん』


視界が一瞬暗くなったような感覚になったのをよく覚えている。

思い出すだけでもまだ、胸の奥がギューって絞られるみたいに痛くて。