「全然気にしてないから!忘れよう!何も起こってない!頭がぶつかっただけ!」

相良くんに嫌われまいと、自ら必死にそう言う。

忘れられるわけがないのに。

指先が触れただけで、心臓はいちいちうるさく鳴っていたんだから。

相良くんは、一度もこちらを見ないまま口を開いた。

「……丸山さんは忘れられるの?」

「……う、うん!」

それが、相良くんの望むことなら。それで嫌われないで済むのなら、私は忘れるように努力するよ。

そう思っていたら、相良くんが「……ふっ」となぜか力なく笑って。

「そうだよね」

と静かに呟いてから、そのまま私に背を向けるようにして離れた。

その後、少しの間は気まずい空気が漂ってしまっていたけれど、このまま相良くんと話せなくなっちゃうのが嫌で、怖くて。

話すタイミングを伺いながら、なんとか、出来上がった鍋が美味しくできたおかげもあって、また話すことができた。

「美味しいっ!」と感想を漏らせば、相良くんも「うん。うまい」と笑ってくれて。

それをきっかけに、雰囲気が徐々にいつもの感じに戻っていって。

食べ終わって食器を片付けるころには、完全に普段通りのやりとりができるようになっていた。