『名前、なんていうの?』
『……えっと、カ、カイト』
ぐいぐい距離を詰めてくる彼女に少し戸惑いながらも、初めて出会ったその子に『カッコ悪い』と思われたくなくて嘘の名前を呟いて。
『カイトくん!よろしくね!カイトくんのおうち、近いの?』
『ううん。今おじいちゃん家に遊びにきてるだけ。おじいちゃんちはすぐそこだよ』
『そうなんだ!私と一緒だー!あ、カイトくんカニ見た?』
母親がうちからいなくなって、まるで暗い部屋に閉じ込められた気分になっていた俺にとって、彼女は窓から差す一筋の光みたいだった。
『え……カニ?』
『うん。海の砂には小さいカニがいっぱいいるんだって!それ見にきたの!』
『あ、そうなんだ……』
明るくて天真爛漫というか。
チラッと見えた彼女の両膝に貼られた絆創膏を見て、痛そうなのにこの子ずっと笑ってるなって思った。
『カイトくんも一緒にカニ探さない?5匹見つけると、いいことあるんだって!』
そんな話初めて聞いたけど……。
なんてツッコミたかったけど、彼女があんまり嬉しそうにいうもんだから言えなくて。



