(あ…)



その場に取り残され、呆然としていたが。

同じく取り残された薫が、ずっとこっちを見ているのに気づく。



「あ、あ…ひ、久しぶり」



何を話せばいいのかわからなくて…取り敢えず当たり障りのない挨拶を、してしまった。

目を合わす事が出来ず、あっちの方を向いてしまう。

薫を直視出来ない…。



「伶士…急でごめんね?あの…」

「…え?」



…これは、現実か。イタズラなのか?



「相談したいことがあって…」



それとも、罠なのか。




薫が、俺に相談…?








…薫の表情からして、その『相談』とやらは、真剣な話なのか。

その『相談』の一言で、いくらかの警戒を解いてしまった。

結果、薫の話を聞くことになる。



「静かなところで話さない?」



そう言われて、取り敢えず会場であるホールを二人で出る。

何処で話そうか…。

このホテル内の静かな場所を、頭の中で探してみる。



「…私の部屋、来る?」



そう言って、薫は手に持っていたクラッチバッグの中からルームキーを取り出していた。