「………」


なずなは、依然として沙羅先輩の方に目を向けて、黙っている。

こっちの騒ぎには目もくれず、考え事をしているようだが。

ここでのノーリアクションは助かりますよ、はい…。



だが、安心してはいけない。



「どうしたの?伶士…早くおいで?」



沙羅先輩、今度は俺を容赦なく誘ってくる。

ダメダメダメダメ。

そっちを見ないように、聞いてないフリをする。



だが、沙羅先輩はしつこい。



「伶士、おいで?…前みたいに愛し合いましょう?」



…何っ!

前みたいにって…。

そこで、何気にペロッと…!



バツの悪い思いを抱えながらも、カッとなって思わず振り向いてしまう。

すると、沙羅先輩はあの妖精のような笑顔を向けてきた。



「え?お兄さん、あれと知り合いどころか不義の関係でやんすか?」

「……」



やんすマルコメ、うるさいぞ…!



しかし、そんな坊主でもないのにマルコメというネーミングのヤローを構っている場合ではない。

沙羅先輩の視線に捉えられてしまった。

罠にかけられた獲物のように。