そうか…酔っぱらいの仕業ではなく、やはり、その『魔力』とやらの仕業。
だよな。
こんな壁ガーッ傷付ける輩がいたら、気付くはずだっつーの。
それほど大胆な傷だ。
すると、なずなは神妙な顔で呟く。
「…ここ、オデットの階上なんだよね」
先ほどの被害の店の真上…ってことか?
それは、偶然ではない…だろうな。
「ひょっとしたら!…行こう、伶士」
「ああ!」
マスターに頭を下げて、店を出る。
「…あ、ビルのオーナーには事情を説明しときますんで、修理業者呼んでも大丈夫です」と、一言付け加えて。
マスターは「あ?…あ、そ?」と大して気にもしない返答をするが。
しかし、勢いで店を出た後。
またしてもジロッと見られる。
「…この先、ホントに来んの?」
また、それか。
「おまえが『行こう』言ったんじゃねえかよ。行く」
「………」
再び、不信な目で見られ、無言で先を行かれる。
何だよ。まだ帰れとか思ってんのか。
勢いで『行こう』言ったくせによ。
天丼やらかしてるのは自分だっつーの。
…でも、『行こう』の一言は、嬉しかったりした。



