兄貴の隣には、薫がいた。

兄貴に腰を抱かれ、寄り添って歩いていく。

薫は友達に手を振りながら、兄貴と一緒に正面玄関に横付けされた迎えの車に乗り込んでいた。

…あの送迎車、親父の会社のだ。

兄貴は忠晴に送迎をあまり頼まない。

夜遅くまで遊んでいる時はタクシーを使うし、忠晴に小言を言われるのが嫌なんだと思う。



車に乗り込んでいった二人。

ドアが閉まったとたんに、二人はキスをしていた。



その光景を遠くから見ていた俺は、胸が痛い。

まるで、刃物で八つ裂きにされたかのように。



(何で…)



何でこんなことになってるんだ。

それは、後悔なのか、悲哀なのか、憎しみなのか。

握る拳は、カタカタと震える。




『…伶士、何をしてるのですか』

『わっ!…ま、舞絵っ』



俺の背後には、いつの間にか長年の付き合いの友人がいた。

舞絵はこっちを不振そうに見ている。



『…何であなたがコソコソと隠れなくてはならないのですか』

『べ、別に…』



俺の様子も、兄貴たちのことも見てたのか。

黙って見てるとか、どういうつもりなのかこっちが聞きたい。

みんなして俺をバカにして…。