…沙羅先輩に惚れ込んでいたかというと。
恐らく、そうではない。
ただの欲を満たすだけの相手、だったと思う。
確かに沙羅先輩は、誰もが憧れる『妖精』のような絶世の美女だったが。
俺は、その仮面の下に潜んでいた獣の狂気を知っている。
当時はわかっていなかったが、それを恐ろしいと感じたのは、自分に本当に好きな人が出来てからの話だった。
思い出したところで、昔を懐かしんで微笑むことの出来る思い出ではない。
だから余計、思い出してしまったことに自己嫌悪する。
ああぁぁ…。
そんな自分にガッカリしながら、忠晴の作ってくれた弁当を黙々と食べる。
颯太や陣内らの話を聞きながら、弁当も食べ終わった頃。
頃合いを見計らったかのように、美森が「おっつー!」と、俺達の輪の中にやってきた。
「おー。何だおまえわ」
颯太がテンション低めに牛乳を啜って美森をチラッと見る。
「弁当終わりましたか!」
「終わっとる終わっとる」
「実はさー。颯太と伶士にお願いがあって…」
美森、元気だな。



