「何、泣いてるわけ?」


 笑い声を含ませながらの
 珀ちゃんの声。


 『なんでもない』って伝えたいのに。
 涙が止まってくれなくて
 声なんて出てこない。


 珀ちゃんは私の前にしゃがみ込むと
 また、私の頭をポンポンとした。


「明梨、頑張ったな」


 滅多に見せない、珀ちゃんの満面の笑み。
 なんで今、見せるかな。

 
 お兄ちゃんが妹を慰めるような
 そんな優しい瞳を宿した珀ちゃんが
 言葉を続けた。


「俺の負けだな」


 負けって何のこと?


 疑問の色を浮かばせ
 珀ちゃんを見上げる。


「完全に俺の負け。
 総長が姫に負けるって、情けねえな」


 だから、私に負けたって何のこと?


 落ち着いた涙をぬぐいながら
 私は声を絞り出した。


「珀……ちゃん?」


「お前さ、そろそろ学習しろよな。
 潤んだ瞳でお前に見つめられて
 ドキッとしない男なんていねえからな」


 はーっとため息をついて
 あきれ顔の珀ちゃん。

 話、そらさないでよ。