「ただいまー。」

「あらぁ~♡♡♡!!やだ健くぅーんっ!」
我が家のように健が未茉の家に一人で上がると、未茉ママが驚きながら出迎えてくれる。

「あ、未茉はさっきまで一緒だったんだけど、公園でもうちょい練習するって。」
「あらぁ~そうなのあの子ってばぁ。」

「後で迎えに行きますよ。嵐は?まだいる?」
スリッパを履きながら上がって未茉ママに誘導されながら客間のふすまを開けると、


「う・・・」

どよ~~~ん。と重苦しい陰気が客間中に広がり、ビデオを見ながら踞り小さくなる嵐がいた。


「なんか元気ないのよー。朝から閉じこもっちゃって。」
と小声でママはそう困ったように言い残すと部屋を出ていった。


「嵐。おい。」

軽く肩を叩くと、
「うるせー」
グスッと鼻をすすり涙を隠しながら背中を丸め体育座りをしている。

「聞いたぜバカだな。お前。」
「うっ…うるせー」

「分かってんだろ?八つ当たりだって。分かっててへこんでんだろ?」
ため息つきながら、嵐の隣に膝をたて座る健。

「お前はただ湊を好きっていうアイツが許せねぇだけなのに、バスケにこじつけて腹いせすんな。」

「……アイツ変わったよ。」
「どこが?」
「昔はもっとこー、常に貪欲だったしもっとバスケだけに熱中してた。」
「今でも結構貪欲だぜ?」
「ちげぇっ!!アイツはもっと……」

「嵐。」

「……」
「確かに昔はお前と瓜二つのようにしたいこともやりたいことも考えることも一緒だったろうけど、離れてりゃそりゃ人は変わる。ましてやアイツは女だぜ?」

「……」
「自分の価値観を押し付けるな。人は環境や生活で得ることや考えることも変わってく。バスケでも。変わらないことが正しいこととは限らねぇよ。」

「……ゎっかってるよ……!」
正論を健に述べられると悔しそうに壁一点を見つめながら言い放つ。

「でもあいつの原点は変わってはねーと思うよ。ちゃんと日本一目指してるって。」
「……」
「ちなみに俺も目指してっからな。」
「俺が高校に来たらもう健は無理だ。」
「テメェ」
かわいさ余って憎さ百倍で嵐の髪をぐしゃぐしゃにすると、
「健っやめろよ!!」
幼馴染みの兄ちゃんにいじられてどこか嬉しそうに嫌がる嵐だった。